Research Abstract |
本計画では,文法化と超越性という人間言語に特有で普遍的な性質に着目して言語の起源と進化について構成論的アプローチを用いた研究を行う.まず,昨年度開発した格表現を創発しうる認知モデルとそのベースモデルのシミュレーションを行い,世代を通じた語義変化は,一見コミュニケーションを難しくするように思うが,より基本的なレベルでの言語知識の一致を可能にする認知機能から生じるものであることを示した. 「言語ルールを拡大適用する能力である言語的類推能力が約5万年前にホモサピエンスに生じたことが現代的言語の起源となり,メタファー的・メトニミー的推論の組み合わせにより具体から抽象への文法化がおき,言語の複雑化・文法の構造化という言語の進化が起きた」という,これまでの研究を通じて提示した言語の起源と進化に関する仮説の精緻化を進めた.言語の適応的機能は「コミュニケーション=意思疎通」だと考えられることが多い.一方,言語がもたらす「思考能力」が適応的機能であり,コミュニケーションにも用いられるようになったという説もある.本仮説は,言語の適応的機能はその「創造性」にあり,人間に特有の創造性を説明する上で重要なものである.言語レベルでの形式的操作で生じた新たな形式に対して,新しい"意味づけ"を行うことが新しい概念と超越性をもたらすという考え方であり,その例として,数学における数概念の拡張を検討した. 3月に京都にて「The International Seminar on the Emergence and Evolution of Linguistic Communication 2010」を開催し,比較認知科学,生成文法,認知言語学の研究者を交え,言語とコミュニケーションの起源と進化についてレクチャーと討論を行った.動物のコミュニケーションと人間言語との関係,統語の基礎的生得的能力である再帰,言語以外の認知システムとの関連性などを検討し,上記仮説の精緻化を進めた.この会議は,本研究分野および上記成果の普及とさらなる発展の上でとても有意義であった.
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