Research Abstract |
平成20年度は,我々が考案した上肢の単関節運動の動画呈示による自己運動錯覚の誘起方法(自己運動錯覚誘起課題)が,下肢においても適用可能であるかどうか明らかにすることを目的として研究を行った。自己運動錯覚の評価にはVisual Analog Scaleを用い,さらに,その際の皮質脊髄路興奮性の変化を,経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位の変化により検討した。その結果,自己運動錯覚誘起課題を用いることで,標的とした身体部位において自己運動錯覚が誘起されると同時に,皮質脊髄路興奮性は増大する傾向が認められた。このことは,下肢においても,我々が考案した方法によって,自己運動錯覚を誘起できる可能性を示唆している。その一方で,その効果は上肢を対象とした場合の方が強かったことから,自己運動錯覚の程度には身体部位依存性があるものと考えた。 また,我々はこれまでに,動画によって呈示される身体の空間位置と実際の身体位置との間に不一致が生じる場合,皮質脊髄路興奮性の変化は認められないことを明らかにしている。今年度はそれに加えて,そのような状況下であっても,動画呈示された身体部位のみを注視するように視野を制限した場合に,皮質脊髄路の興奮性が高まることを明らかにした。これらの結果は,動画呈示による自己運動錯覚の誘起には,動画内の身体位置と実際の身体位置との不一致を視覚的に認識できるかどうかが重要であることを示唆している。このことは,視覚刺激による自己運動錯覚の誘起を臨床症例におけるリハビリテーションに応用するために,重要な知見である。本研究での結果は,関節固定などの身体不活動や脳血管障害による運動機能低下を予防,回復させるための治療的介入において本法を使用する際に留意すべき点に関する基礎資料となる。
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