Research Abstract |
本研究では,わが国の一般市民のリスクや科学技術に関する認知レベルとその構造の現状を把握し,リスクリテラシー向上の実現のための効果的な科学教育方法の開発に向けた基礎資料を得ることを目的として調査を行った。調査は全国の成人2000人を対象とし,原子力発電所,農薬,大地震,火力発電所,遺伝子組み換え食品,放射線,車,食品添加物,レントゲン,携帯電話等の17の項目に関して,生活への関連,危険度,必要性,恩恵,安全性の程度等の7つの観点について尋ねた。その結果,回答者の9割が危険と回答した「大地震」や,「放射線」以外では,「遺伝子組み換え食品」,「食品添加物」,「農薬」の食品に係わるリスク項目で危険度の認知が高かった。また,同3項目については安全性ありとした回答が約3割と低かった。一方「車」では,危険と認知した人の割合は先に挙げた食品関連の3項目よりも低く,また全体の7割が安全性ありとした。平成22年の交通事故死者は全国で4863人に上るが,そのリスクに関わる「車」等よりも,事件による健康被害の報告などはあるが,現時点での直接的な死亡のリスクは車よりも低いと考えられる食品関連の上記の3項目の方が一般市民の危険との認知は高く,かつ安全性が十分でないという判断がなされており,実際のリスクとリスク認知にずれがあることが明らかになった。また危険度の認識との関係において,食品関連の上記3項目などでは生活上の必要性や恩恵の有無の回答との間に相関関係があったのに対し,「車」では必要性や恩恵との相関は殆ど認められず,他の項目に比してやや特殊なリスク認知構造があることが示された。交通事故の防止や,事件や災害に関連した食品の風評被害の問題への対応などを考える場合,このような実際のリスクとリスク認知のずれについて十分考慮する必要があり,今後はこの点を考慮したリテラシー教育が必要であることを明らかにした。
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