Research Abstract |
本研究では,音声の構造的表象に基づいて外国語発音をモデル化し,教師と学習者間でこれを比較することで,外国語教育・学習の支援環境の構築を試みた。音声の音響的特徴は話者の体格,年齢,性別などによって異なるため,同一の発音も異なる音響事象として観測される。音声の構造的表象は発音評価と無関係なこれらの要因に基づく音響的(かつ静的な)バイアスを取り除いた後に残る情報のみを表象する技術であり,これに基づいて外国語発音を表象し,モデル化する。 先行研究において,英語母音(単母音)郡を対象としてこれらを構造的に(母音体系として)表象することを試みている。本研究ではこれに引き続き,二重母音まで含めた構造的表象の応用,および,子音を含む構造的表象の応用について検討した。前者では,ライミング学習を念頭に置き,二重母音を含めた全母音群を構造的にモデル化した。この場合,強勢,弱勢などの韻律的特徴も自ずと含まれてくる。二重母音を対象にした場合,母音内でスペクトル遷移が生起するため,母音を前後に分割し,2ノードとして構造表象に組み込むことで対処した。実験の結果,良好な結果を得ることができた。 後者では,子音への対象を検討した。子音の場合,その音色が話者によって異ならない音もある(無声破裂音,無声摩擦音など)。即ち,言語音の中には,構造的に音と音の関係をとらえるべき音と,音そのものをとらえるべき音の両方が存在すると考え,従来の音の絶対的特性を処理する手法と,筆者らの音の相対的特性を(構造的に)処理する手法との融合を考えた。構造的に発音を表象すれば,学習者,教師ともに(音素間,音響イベント間)距離行列として表現される。この行列間の差異でもって教師・学習者間距離を定義することになるが,ここでは,行列差異の要素に対して重みを導入することで,各学習者の発音習熟度を予測する回帰分析の枠組みを導入した。と,同時に,音そのものをとらえて評定する従来技術(GOPスコア,Goodness Of Pronunciation)も同様に説明変数として導入し,相対的スコア,絶対的スコアの両者を重みをつけて足し合わせる形をとった。その結果,全音素を対象として,話者の体格,年齢,性別に依存しないきわめて頑健な発音評定が可能となった。
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