Research Abstract |
平成22年度では,前年度までの研究(国の補助が生活保護率に与える効果,生活保護の財源不足率の算定,2005年の国庫補助廃止が地方の就学援助に与えた影響の分析)を完成させるとともに,残された課題(生活保護をめぐる「底辺への競争」の有無,生活保護現業員に対する必置規制緩和が生活保護行政に与えた影響)を検討したが,とれらについては発表に足る十分な結果が得られなかった.しかし,これらの作業は,生活保護現業員の業務負担が生活保護給付の抑制につながるか否かを検証する分析へとつながり,一定の成果をみることができた.ここでは,現業員1人当たりケース数(業務量)と生活保護給付ケース量との関係を市単位のパネルデータを用いて検証し,現業員の業務量が大きいほど生活保護給付数が抑制されるという結果を得ることができた.この分析は,現業員数の制約が生活保護受給の枷になっているという流布している命題を,実際のデータを用いて明らかにしたという意味で意義深いと考える.なお,この分析については平成22年度日本経済学会秋季大会にて発表した. さらに,生活保護の財源不足の要因について分位回帰を用いて検討した.その結果,受給者の精神疾患に関する要因が財源不足に影響を与えていること,また,財源不足が大きい自治体ほど生活保護の需要要因に歳出が追いついていないこと等が明らかにされた.ここから,地方交付税の基準財政需要額による生活保護財源の保障において,特に精神疾患に係わる受給者のニーズを適切に織り込む必要があることが示唆された.なおこの分析については平成22年度日本応用経済学会春期大会で発表した. その他,生活保護の分析に関連して,就学援助に関する分析(日本経済学会春期大会,公共選択学会発表)を行い,また,生活保護を含む日本の社会保障に係わる政策課題に関するポリシーペーパーを複数執筆した.
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