Research Abstract |
臨界帯域フィルターを通した多言語音声のパワー変化を因子分析した結果,得られた因子をもとに,音声を4周波数帯域に分割することができる。この4周波数帯域におけるパワー変化が,音声知覚において果たす役割を明らかにするため,日本語単音節から20帯域(臨界帯域)および4帯域の雑音駆動音声を合成し,さらに4帯域の雑音駆動音声からいずれか一つの帯域を除去した音声を合成し,これらに原音声(男女各1名)を呈示する条件を加えて聴取実験を行った。単音節の同定結果(異聴表)から,子音の有声性,調音方法,調音位置,および母音の種類について結果をまとめ,伝達情報量の計算を行った。その結果,4帯域のうち,最も低い周波数帯域を除去することにより,子音の有声性,調音方法,調音位置のいずれにおいても顕著に伝達情報量が低下した。特に,子音の有声性に対する影響が甚だしかった。このことは,有声子音と無声子音の区別は,声帯波の出現する時点と破裂の出現する時点との時間差(有声開始時間)が手がかりとは限らず,最も低い周波数帯域とそれ以外の帯域との間で生ずる立ち上がりの時間差が手がかりとなり得ることを示している。調音方法や調音位置の知覚に関しても,破裂等の物理的手がかりが存在する高い周波数帯域よりも,低い周波数帯域と他の周波数帯域との相対的な時間的関係が重要であることを示していると考えられる。下から二番目の帯域を除去することにより,母音の種類の同定に関する伝達情報量が顕著に低下した。このことは下から二番目の周波数帯域とその上下の周波数帯域との間で生ずるパワーの時間的変化が母音の知覚にとって重要であることを示している。本年度はこれ以外にも,視覚刺激の系列再生課題に無関連な音声刺激(母語および非母語)がおよぼす影響,準実時間子音強調システムの実用化,雑音と残響および発話速度が音声聴取能力に及ぼす影響に関する研究などを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
帯域除去の条件を含む日本語単音節の雑音駆動音声の知覚実験において,当初の計画にはなかった話者の複数化を行い,さらに,伝達情報量の概念を用いて結果を処理することにより,より明確に,かつ一般性の高い結果を得ることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
音声の因子分析に基づく研究に関しては,因子から導き出された周波数帯域を操作することで,因子の意味を間接的に明らかにする研究をさらに一歩進め,因子そのものの操作を行うことにより,各因子の音声知覚における役割をより直接的に明らかにする方向を目指す。音声の子音強調に関しても,因子分析の結果を応用できないか検討する。
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