2008 Fiscal Year Annual Research Report
明治期初等国語読本とリテラシー形成メディアとしての子どもの読み物に関する研究
Project/Area Number |
20330180
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
府川 源一郎 Yokohama National University, 教育人間科学部, 教授 (00199176)
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Keywords | 翻訳啓蒙書 / グリム / アンデルセン / 比較文学 / 児童文学 / 国語教育史 / 英語読本 / 福沢諭吉 |
Research Abstract |
本年度は、明治期初等国語読本と子ども読み物の状況を調査しその特徴を整理した。まず、明治初期の「子ども向け翻訳啓蒙書」として、従来は取り上げられてこなかった25冊を博捜し、それらを一覧表にした。総数では、33冊をランクアップすることができた。この調査は、2008年秋の日本児童文学学会で報告した。その多くがアメリカの英語読本に材を仰いでおり、中でもSargent's Standard Readerを種本としたものが最も多いことがわかった。そのうち深間内基の『啓蒙修身録』と松山棟庵の『サルゼント氏第三リイドル』には、本邦初訳のグリム童話が含まれていた。また前者にはアンデルセンの本邦初紹介作品もある。さらに、これら「子ども向け翻訳啓蒙書」には、アメリカのコウデリーの修身書から翻訳したものもいくつかある。明治初期には、子どもの読み物として「修身」的な内容を持つものが求められたからだと思われる。また、こうした子ども向けの翻訳・翻案作業が数多く行われた大きな要因に、福沢諭吉の直接の影響力が働いたことも指摘できる。一方、諭吉の影響とは別に、同様な訳業も各地で行われており、その中では、全文ひらがなによる鳥山拓の子ども向け啓蒙書の先駆的な仕事が、特筆すべきものである。これら「子ども向け翻訳啓蒙書」が果たした役割を、もとになったアメリカの読本や修身書などと比較して、その内容、文章・文体などの観点から検討した結果、これらの本が明治期の子ども読み物に占める位置は、これまで考えられてきた以上に大きいのではないかという結論を得た。
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Research Products
(2 results)