2011 Fiscal Year Annual Research Report
数理ファイナンスにおける確率制御・フィルタリングの方法の発展と応用
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20340019
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
長井 英生 関西大学, システム理工学部, 教授 (70110848)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
A Kohatsu・Higa 立命館大学, 理工学部, 教授 (80420412)
宮原 孝夫 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 名誉教授 (20106256)
小池 茂昭 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90205295)
石井 仁司 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70102887)
畑 宏明 静岡大学, 教育学部, 助教 (00609290)
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Keywords | 大偏差確率制御 / 期待効用最大化 / ポートフォリオ最適化 / 粘性解 / リスク鋭感的価値尺度 |
Research Abstract |
・流動性の低い金融資産の市場の数理モデルに関して、部分情報下で期待効用最大化問題を考察した。対数効用とべき型効用のそれぞれの場合に対して、値関数の解析を通じて、最適戦略の構成を行った。 .インサイダー取引モデルの設定でインサイダーが市場に影響しても、均衡が存在することが証明できた。このモデルではインサイダーの影響が株価過程のドリフトにしかないが、今後、SVモデルの設定への拡張の可能性について研究を行う。 ・リスク鋭感的価値尺度がリスクと価値の両者を考慮に入れた評価法として優れていることを踏まえ、この評価法を種々の分野に応用することを試みた。 ・ハミルトン流を移流項とする退化楕円型方程式に対する特異摂動問題について,解の極限問題への一様収束を示した.これはFreidlin-Wentzell(1994年)の結果を拡張し,確率論的手法を用いない偏微分方程式論に基づく方法を呈示している.また、完全非線形2階楕円型方程式に対する固有値問題の研究,ハミルトン・ヤコビ方程式に対するノイマン型境界値問題の解の時間無限大における振舞いの研究を行った. ・ n 次元ユークリッド空間において、1階微分に関して1次以上の増大度がある場合に非発散型2階楕円型方程式の粘性解に関する比較原理を示した。さらに一階微分係数が n 乗可積分で、非斉次項が p乗可積分の時、完全非線形一様楕円型方程式に対し、Lp 粘性解のABP最大値原理が成り立つ事を、臨界条件値の場合に条件付きで示した。また、その応用として、Lp 粘性解の弱ハルナック不等式および、局所最大値原理を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
市場の数理モデルに対して、資産の成長率が予め定められた目標を下回るリスクを時間大域的に最小化する問題(ダウンサイドリスク最小化問題)を大偏差確率制御問題として考察した。線形ガウス型モデルに対して、完全情報下の問題の場合に得られた結果を、Annnals of Appl. Prob. (2010)に、同モデルで部分情報下の場合に得られた結果を、Quantitative Finance (2011) に発表した。また、一般的なファクターモデルに対して得られた結果を、Annals of Appl. Prob (2012) から出版予定となっている。これらの成果は高い評価を受け、国内の学会や海外での国際会議での招待講演として発表した他、日本数学会解析学賞を受賞した。それらの研究では、確率制御問題の時間大域的な確率解析と、対応するエルゴード型J-J-B 方程式の非線形解析を結合させたものとなっており、制御項を含む汎関数に関する大偏差原理の考察という意味で、大偏差確率制御問題の研究ということができよう。関連する H-J-B 方程式の時間大域的解析はそれ自体の研究として、分担者石井とその周辺でさらに研究が進展している。また、リスク鋭感的確率制御と関連して非完備な市場での価値尺度に関する研究が分担者宮原の周辺で進行している。その成果を宮原は著書として出版した。 さらに、流動性の低い金融資産の市場モデルにおける,部分情報下の期待効用最大化問題を新たに定式化し、値関数の解析を通じて、動的計画原理の証明と最適戦略の構成を行った。この結果は、フィルタリング理論の最近の研究の進展を、初めて市場の数理モデルに適用したものとなっている。 以上のことから概ね順調に研究が進展していると言ってよいであろうと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
市場の数理モデルに関するダウンサイドリスク最小化問題を大偏差確率制御として研究した上記の成果を発展させる。制御項を含む半マルチンゲール汎関数を、与えられた一般的な拡散過程に対して定義し、その汎関数に関する大偏差確率について、双対性定理を導く。その際、H-J-B 方程式の時間大域的解析に関する研究の最新の成果を取り入れ、さらに発展させてゆく。また、与えられた拡散過程のずれの係数に不確かさを容認した設定で同様の問題を考察し、大偏差確率のロバストな評価を求める問題を考察する。 一方、最適投資・消費問題についても、確率制御問題として考察する。その際、対応するH-J-B 方程式に関して、粘性解の方法による、H-J-B 方程式の最近の研究成果を取り入れた解析手法や、Leray-Schauder の理論を用いた解析手法をさらに検討して、値関数の解析を進め、また最適戦略の構成にあたっては、さらなる確率解析手法を展開した研究を新たに推進する。この問題の、H-J-B 方程式には、指数型の非線形項が付け加わることによる困難さがあるが、確率解析手法も援用して解析を進める。 さらに、この問題に関する時間大域的問題も考察するにあたって、対応する、H-J-B 方程式の時間大域的解析の研究を推進する。この際、上に記した、指数型の非線形項による影響がどのように現れるか検討する。
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Research Products
(15 results)