Research Abstract |
交付申請書に記載した研究テーマについては概ね順調に研究が進展した.また,新たな研究テーマについても成果が得られた. 1.非等方的拡散方程式の特異極限と界面運動 ある種の非線形拡散方程式においては,拡散係数を0に近づけた特異極限下で不連続界面が現れ,多くの場合に極限界面曲の運動は曲率に支配されることが知られている.本研究では,非等方性をもつAllen-Cahn型方程式の特異極限を考察し,界面の位置と運動に関する精密な評価を導いた(文献[4]). 2.非線形熱方程式の解の爆発の研究 ベキ型非線形項をもつ熱方程式でベキがソボレフの臨界指数より大きいもの(超臨界型熱方程式)を考察し,フランスのF.Merle氏と共同でほとんどの爆発が「単交点爆発」であることを証明するとともに,この事実を利用して局所エネルギーに関する新しい結果が得られた(文献[1]). 3.ノコギリ型境界をもつ帯状領域における進行波の研究 本研究は,研究分担者の中村と中国同済大学のB.Lou氏と共同で進め,境界の凹凸がエルゴード的である場合の進行波の性質を詳しく解明できた.この成果は学術誌に投稿済みである. 4.3次元細胞電気生理学モデルの数学的研究 これは新たな研究テーマである.神経パルスの伝播は,細胞膜内外の電位差の変化が空間的に伝わる現象である.古典的モデルのHodgkin-Huxley方程式や,その簡易版のFitzHugh-Nagumo方程式は,いずれも細長い神経細胞(ニューロン)を1次元媒体で近似したものである.これに対し,細胞の3次元構造を考慮すると,方程式は細胞の境界面(すなわち細胞膜)上で定義された擬微分方程式になるが,その詳しい性質は未解明であった,本研究では,「作用素の擬正値性」という新しい概念を導入することにより,解の一様有界性を証明することができた.また,大域アトラクターの性質を調べた(文献[2]). この他,組みひも群の理論を用いてdead core型特異性の生成速度を決定する研究についての成果(文献[3]),KPP型拡散方程式の速度を最大化する係数を求める問題についての研究成果(文献[5]),および空間1次元の半線形拡散方程式の漸近挙動に関する研究成果(文献[6])を公表することができた.
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