Research Abstract |
〈光誘起相転移における相境界の成長ダイナミクス〉 これまでの光誘起相転移研究では,光誘起相ドメインの境界に関する情報がほとんど得られていなかったが,我々はシアノ架橋錯体(RbMnFe系)におけるCN振動のラマン散乱スペクトルから低温相,高温相,境界の3者が定量できることに着眼し,室温における光誘起低温相とドメイン境界の時間発展を観測した.その結果,熱的な相転移の場合に比べて遥かに多量の境界が生成されていることが分かった.これは,光誘起により小さな低温相核が多数発生したことを意味している,また,励起光強度に対する依存性を調べたところ,高強度の場合ほど境界がより急速に生成されること,すなわち小さな核がより多数発生することがわかった.このように光誘起相転移における境界の役割を明らかにしたのは,本研究が初めてである. 〈光誘起相転移における蓄積効果回避分光法の確立〉 これまで光誘起相転移の超高速時間分解測定では,光誘起相が次の励起パルスが来るまでに緩和して元の相に戻る必要があり,対象は光誘起相が短寿命のものに限られていた.これに対して,我々はRbMnFe系シアノ架橋錯体において,逆方向の相転移を誘起する光を同時に照射することで,蓄積効果を回避し,繰り返し測定を行う手法を開発し,低温の試料に適用して,高温相⇒低温相,低温相⇒高温相,の双方向の過渡的な振舞いを調べることに成功した.その結果,電荷移動とともにピコ秒領域で光誘起相と境界成分が現れることが分かった.この結果は未転移領域に小さな核が多数発生していると考えると理解できる. 〈テラヘルツ波の磁場成分を利用したスピン制御〉 オルソフェライトYFeO_3において強磁性共鳴に起因するスピン歳差運動をコヒーレント制御できることを示した.これはTHz誘起磁気相転移の研究の足がかりになるものであり,23年度以降の研究で発展させる計画である.
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