2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20350007
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水谷 泰久 大阪大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60270469)
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Keywords | エネルギー移動 / 共鳴ラマン分光法 / 時間氏分解分光法 |
Research Abstract |
試料には、立体構造が詳細に調べられているマッコウクジラ由来のミオグロビンを用いた。このミオグロビンにはトリプトファぞが2残基含まれているため、まずこれらをラマン散乱強度の弱いチロシン、フェニルアラニンに置換した変異体を作製した。その際、大腸菌での発現量が著しく低下したため、ベクターの交換、培養条件の最適化を行った。これによって、収量を約10倍に改善することができた。この変異体にトリプトファン残基を1残基導入し、ヘムからトリプトファン残基への振動エネルギー移動を、トリプトファン残基の時間分解アンチストークス共鳴ラマンスペクトルによって観測した。ヘムから同じ方向で、かつ距離の異なった位置にトリプトファンを導入した変異体2種、V68Wおよび128W変異体、を作製し、ヘムからのエネルギー伝搬について、距離依存性を調べた(ヘムからトリプトファン残基までの距離は、それぞれ約6および12オングストロームである)。振動励起状態の生成および減衰の時定数は、V68Wおよび128W変異体において、それぞれ3および4ピコ秒であった。また、V68W変異体に比べ128W変異体では、アンチストークスラマンバンドの強度変化の大ききが小さかった。これらの結果は、ヘムからの距離が離れるほどエネルギー伝搬に時間がかかり、かつ空間的なエネルギー密度が低下するという予想と一致する。得られた結果を、古典的な熱拡散モデルで解析したところ、実験結果を定量的に再現するためには、位置によって異なる熱拡散率を仮定しなければならない、あるいはタンパク質の熱拡散率として水と同程度の高い値を仮定しなければならないことがわかった。古典的な熱拡散の描像では、タンパク質内のエネルギー移動を定量的に説明するのは難しいように思われる。
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