Research Abstract |
3d金属である鉄は酸化還元活性であり,特に四鉄骨格は,酸化還元に応答して,その骨格を四面体構造,バタフライ形構造,ヒンジ部位に金属-金属結合を持たないバタフライ形構造間で相互変換できる。本研究では,この四鉄骨格の酸化還元特性に基づき,不活性炭素資源の高効率変換反応への応用を最終目的として,実験的検討を行った。鉄はクラーク数の大きい金属であり,このような試みは元素戦略的観点からも重要である。 代表者はこれまでに[(η^5-C_5H_4Me)_4Fe_4(CO)_4]とLiAlH_4との反応により,一酸化炭素の還元的カップリングにより,[(η^5-C_5H_4Me)_4Fe_4(HCCH)_2]が生成することを見出だし,さらにNBSとの反応により,[(η^5-C_5H_4Me)_4Fe_4(HCCH)(HCCBr)】^+を得ることに成功している。本研究ではこの四鉄クラスターに,第一級アミンNH_2^tBu,酸化剤,および塩基をこの順で反応させることで,プロモアセチレンをメチン(CH)とイソシアニド(^tBuNC)へ四鉄上で変換させることに成功した。メチンおよびイソシアニドが架橋配位したクラスター[(η^5-C_5H_4Me)_4Fe_4(HCCH)(μ_3-CH)(μ_3-CN^tBu))]^+については,その構造を単結晶X線構造解析により明らかにした。その結果,一連の反応の過程で,四鉄骨格ではヒンジ部位の結合が新たに生成し,炭素-炭素結合の開裂反応において,重要な役割を担っていることが明らかとなった。今後,不活性炭素資源を基質として用いた,触媒反応への応用が期待される。 当初予定した,四鉄骨格とタンパク質との複合化により機能性分子を創製する試みは,四鉄部位の水に対する溶解性の問題から,複合化段階で十分な成果が得られなかった。また,四鉄骨格を含有するポリマー合成では,有機溶媒に対する溶解性が問題となった。
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