Research Abstract |
光合成細菌は,貧栄養環境および飢餓環境における物質循環に重要な役割をはたしていることが考えられているが,光合成能力を持つことと貧栄養環境との直接的関連はほとんど研究されていない.本研究では,イオウ,水素,窒素および炭素の物質循環に注目し,温泉と陸水の環境微生物群集中に,光エネルギー利用可能な微生物がどのように存在し,どのような物質循環機能を持っているかを,貧栄養環境との関係で明らかにした.(1)極端に貧栄養の温泉中に微生物マットが高度に発達するが,これは外部から低濃度で供給される硫化水素の還元力が緑色光合成細菌の作用で炭酸固定に使われた後,嫌気微生物群集中で失われること無く保持されることで達成されることが分かった.この保持には,光合成細菌の炭酸固定に続き,発酵細菌による水素発生,硫酸還元菌による硫化水素発生,硫黄還元菌による水素発生が関与していることを明確にした.この際,光合成細菌から非光合成細菌へのエネルギー移動に,非光合成細菌が分泌するタンパク質分解酵素が作用している可能性を示唆した.(2)貧栄養傾向にある湖沼中に,光合成能力を備えた部分脱窒細菌が他種類存在することを明らかにした.これらの脱窒光合成細菌は単独では脱窒を完了し得ず,他の部分脱窒細菌と協働して,脱窒を進行させていることがわかった。光エネルギーを補助的に使用できることが,これらの部分脱窒光合成細菌の生存を支えていると考えられた.(3)4種の紅色光合成細菌で飢餓条件における光の存在が生残率を大きく高めていることを明らかにした.この時,光によるATP生産が寄与している可能性が高いことを示した.一方,暗所での生残率はそれら4種で大きく異なっていた.暗所での生残率の違いは,浸透圧ストレスや熱ストレスへの抵抗性とも相関があった.生残率の違いの原因としてATP利用系の効率の大きな違いが考えられた.
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