Research Abstract |
(1)温泉微生物マット中の光合成細菌遺伝子とイオウ・炭素・水素の循環機能の解析. (1)典型的な貧栄養環境の一つである温泉流水中の光合成細菌を含む微生物マットを材料にイオウ化合物,窒素化合物,水素の増減活性を測定する. (2)微生物マット中のリボソーム遺伝子,光合成反応中心遺伝子,クロロフィル合成酵素遺伝子の塩基配列を決定する. (3)温泉中の光合成細菌を含む微生物群集におけるイオウ循環と水素の発生を明確に示す.あわせて,それに関わる細菌群の群集構造解析と空間分布を明らかにする. (4)微生物マット中での主要な物質循環の全体像を明らかにするために,物質循環に関わる細菌を単離し,実験室内で温泉微生物マットを再構築し,上記の光合成細菌が関与する物質循環系の存在を実験的に検証する. (5)上記の結果を合わせて,微視的な環境条件が,そこでの物質代謝,特に炭素,イオウ,水素の代謝に与える影響と,その中の光合成細菌の役割を明確にする.それを通して,光エネルギーのうち,増殖に使われる割合と増殖を伴わない生存に使われる割合を推定する. (2)多摩川の川底礫上の微生物マット中の光合成細菌の存在と機能の解析. (1)貧栄養環境である清浄な河川中の微生物群集中において,光合成細菌が光エネルギーを利用して多くの種類が存在する可能性を,光合成遺伝子解析を用いて検証する. (2)川底の礫上の微生物マットの発達過程を経時的に観察し,光合成細菌が発達段階に応じてどのように増加するかを明らかにする. (3)川底礫上の微生物マットと,前項の温泉微生物マットを比較し,中温域の微生物マットにおける光合成細菌と硫酸還元細菌が関与するイオウ循環の可能性を検証する. (4)川の水質等(有機物濃度,温度,pH,各種塩類濃度,光強度)と,そこに存在する光合成細菌の相関を明らかにする.それにより,光合成細菌の物質循環における役割の他に,飢餓的条件における生存のために光合成機能を利用している可能性を探る. (3)土壌中の光合成細菌の分布と貧栄養環境での光エネルギー利用 (1)土壌中の貧栄養環境での光合成細菌の存在を,貧栄養条件を用いた集積培養で明らかにし,存在する細菌を単離同定する。 (2)実験ほ場に,栄養条件の異なる土壌および砂地を用意し,光合成細菌を散布して,明暗両条件を与える。その後の消長をDNAプローブを用いて追跡し,光エネルギー利用の光合成細菌生残に適した条件を野外で調べる。RNAも解析することにより,実際に利用されている光合成活性との関係を明らかにする。 (3)単離した光合成細菌を用いて,実験室で光合成細菌の生存曲線を,さまざまな光条件で測定する.こられの結果と野外における光エネルギー利用との関係を探る. (4)土壌および水界中の光合成細菌の物質循環機能と飢餓適応戦略のとりまとめ (1)設定した仮説「自然界に光合成細菌が広範に分布している理由は,分解者としての細菌が飢餓環境で生残(サバイバル)していくために光エネルギー利用が重要であるためである」を検証する. (2)前項を通して「多くの分解者が広範に光エネルギー利用(広義の光合成,ただし炭酸固定はなし)もしている」という新しい概念を確立することを目指す.
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