2010 Fiscal Year Annual Research Report
無脊椎動物における行動の自発的開始に関わる脳機構の神経生理・解剖学的解析
Project/Area Number |
20370028
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高畑 雅一 北海道大学, 大学院・理学研究院, 教授 (10111147)
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Keywords | 甲殻類 / ザリガニ / 自発行動 / 脳 / シナプス統合 / 神経回路網 |
Research Abstract |
アメリカザリガニProcambarus clarkiiが自発的に歩行運動を開始する際の脳内ニューロン活動を細胞内記録して解析するとともに、記録ニューロンの形態を細胞内蛍光染色法により調査した結果、行動の開始に先行してシナプス活動およびスパイク活動を増加させる下行性介在ニューロンを同定した。昨年度の細胞外記録・刺激法による調査で、自発的な歩行運動の開始に先行してスパイク活動を増加させる下行性ユニットの存在は明らかにすることができたが、そのニューロン形態およびシナプス活動については不明であった。今回の調査により、この先行型ユニットすなわち準備活動ニューロンは、細胞体を前大脳腹側前方部に持ち、樹状突起を中心体および前方・後方内側ニューロパイルに投射するとともに後大脳の食道ニューロパイルに軸索側枝を投射し、その軸索本枝は環食道縦連合のWiersma領域70に伸びることが判明した。シナプス活動は、行動の開始に1~数秒先行して興奮性入力を受けてスパイク活動を増大させ、行動開始とともに抑制性入力を受けることが判明した。人を含む多くの動物の脳内で、自発性(内発性、随意性)行動の開始に先行して準備的なニューロン活動が観察されるが、今回の研究で、この活動が興奮性入力と抑制性入力の一連のシナプス活動に基づくことがはじめて明らかにされた。さらに、膜コンダクタンス変化の解析から、この抑制性入力は、行動開始直後と数秒後とで樹状突起の異なる入力部位で受け取られる可能性が示唆された。また、先行型の下行性ニューロンに加えて同型のスパイク発生型・非発生型局在性介在ニューロン、歩行運動随伴型および停止先行型の下行性ニューロンなどを同定した。今後は、これらの介在ニューロンが行動制御においてどのような機能的意義を持つかを解明する必要があろう。
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