Research Abstract |
初年度である平成20年度においては,まず有明海奥部における過去100年間の環境変遷史のシナリオ作成に重点を置いた.その作成に当たっては,長年に渡る過去の有明海奥部の環境変遷が封印されていると想定される底泥に注目し,採取された底泥コアのPb-210による年代測定,有機炭素・窒素安定同位体比分析,C,N,P,AVS,金属などの定量分析,貝殻遺骸群集分析のデータを基に,年代毎の環境変遷の特徴を取り纏めた.また,この海域の環境変遷に深く関わっている集水域の土地利用状況などの長期的変遷を,GISを用いて解析し,海域への淡水流入量,汚濁物質やSS負荷量の長期的変遷を推定した.さらに,過去約30年の浅海定線調査データを解析し,この海域の水質・底質環境の推移を把握した.そして,これらの結果を総合的に検討し,過去100年間の環境変遷史のシナリオの概要を明らかにした. 次いで,環境変遷史のシナリオの妥当性を検証するために,過去の海岸地形,海底地形,気象条件など,さらには集水域の土地利用状況から推算された淡水流入量,汚濁物質やSS負荷量を計算条件として入力し,過去30年間において流域,海域環境,生物相などの特徴的変化を呈した1980年代前半,1990年頃および1997年以降の各エポックに対する潮汐・潮流,水質・底質分布,浮泥輸送などの数値計算結果を, "いであ(株)"の低次生態系シミュレーションモデルを用いて求めた.最後に,シナリオとシミュレーション結果を総合的に比較,検討し,シナリオ設定の妥当性や低次生態系シミュレーションモデルの精度について検討し,平成21年度の検討課題を明らかにした.
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