2009 Fiscal Year Annual Research Report
メタボリックストレスによる細胞極性の破綻と増殖停止の分子機序
Project/Area Number |
20380187
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 善晴 Kyoto University, 農学研究科, 准教授 (70203263)
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Keywords | 酵母 / 代謝 / ストレス / 細胞分裂 / 極性成長 / ボスファチジルイノシトール |
Research Abstract |
私はこれまでに、解糖系から生成する代謝物メチルグリオキサール(MG)が、種々の転写因子の活性化や細胞内シグナル伝達系に影響を及ぼすことを出芽酵母や分裂酵母をモデル生物として見いだし、その分子メカニズムの一端を明らかにするとともに、代謝物によるシグナル伝達機構「メタボリックシグナリング」という概念を提唱してきた。本研究課題では、これらの解析の過程で新たに発見したMGが引き起こす3つの現象(ホスファチジルイノシトール代謝の変動、細胞極性の消失、スピンドル極体(SPB)の分配異常)について、その分子メカニズムの詳細を明らかにすることを目的としている。本年度は、MGによる細胞極性の消失、とくにアクチンの脱極性化について検討を行った。 出芽酵母は出芽により増殖を行う。すなわち、母細胞から娘細胞が出芽し、それが成長し、やがて娘細胞が母細胞から切り離される。このように、成長の方向性は母細胞から娘細胞に向かってであり、そこに極性が生じる。細胞の極性維持に重要な役割を果たしている因子の一つにアクチンがある。酵母においてアクチン重合体は大きく分けて2つの構造に分類される。すなわち、アクチンパッチとアクチンケーブルである。アクチンパッチは、出芽初期には芽(娘細胞)に集積する。私は出芽酵母をMGで処理すると、芽に集積していたアクチンパッチが、約30分で細胞全体に拡散し、細胞は極性を失うことを見いだした。アクチンパッチの極性維持には低分子量Gタンパク質Rho1が重要な役割を果たし、その機能的下流にはCキナーゼであるPkc1が位置している。そこで、Rho1やPkc1の活性化変異体(Rho1-Q68LやPkc1-R398P)導入株におけるMGによるアクチンパッチの極性変化について検討を行った。その結果、これらの変異体ではMGによるアクチンパッチの脱極性化が抑制されることを見いだした。一方、Pkc1下流の漁Pキナーゼ系(Mpk1-MAPキナーゼカスケード)の構成因子(Bck1)の活性化変異体では、MGによるアクチンパッチの脱極性化は抑制されなかった。また、Pkc1-R398P導入株ではMGに対する生育抑制効果の緩和が認められたことから、MGの細胞毒性は、部分的にアクチンの脱極性化に起因していると考えられた。
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