Research Abstract |
本研究は,脳活動とそれを支える脳循環代謝システムの連動について,その局所原理と全体像を,異なる時空間スケール,すなわち,(1)微視的時空間スケール(2)巨視的時空間スケールから統合的に解明することを目的としている。平成23年度は,(1)に関して,二光子顕微鏡を用いて,神経活動と脳局所微小循環のcouplingに重要な役割を果たすグリア細胞を,微小循環と共に描出する手法を確立した。A.Cranial Windowを作製したisoflurane麻酔下マウスに,suforhodamine 101(SR101:8μL/g体重)を腹腔内に投与。B.投与後約5分で血漿中に移行したSR101の蛍光が脳実質の微小血管内に出現,約20-30分後にピークに達して,投与後10~80分,脳実質内微小血管の3次元立体構造を良好に描出した。C.その後,SR101による微小血管の蛍光強度は急速に減弱しはじめ,180分後にグリア細胞の蛍光強度と等しくなり,300~480分では良好なグリア細胞の描出が得られた。D.このように,SR101の腹腔内投与と投与後の観測最適時間を調整することで,微小血管とグリア細胞の両者の描出が可能となった。E.この手法は,時間をおいて,長期間何度も繰り返し行える為,低酸素暴露や,脳虚血モデルにおける,微小循環系の変化と脳実質の細胞の反応の経時的な描出に有用であった。(2)については,成熟SDラットを研究対象として,α-chloralose麻酔下に,後肢の片側または両側を電気刺激し,体性感覚野(SI)において,電気生理学的信号(局所電場電位,LFP<100Hz;多ユニット活動,MUA>300Hz)と,皮質血液循環に関連する光学的内因性信号を同時測定,各信号間の相関分析を行った。結果は,片側刺激においても,神経活動と皮質血液量の変化に関連する光学信号(CBV/OIS)は,両側SIで観察された。同側刺激によるCBVOISの強度は,反対側刺激の約30%であり,その中心は正中-尾側に変位していた。信号間の相関分析では,LFP-MUAとLFP-CBV/OISの関係において,反対側反応と同側反応とは,異なる線形スケール因子であることがわかった。両側刺激において刺激間隔を変化させると,LFP,MUA,CBVOISは,全て40msの間隔で後続する強く抑制されたが,CBV/OISは,LFPよりMUAで線形的に相関した。しかし,LFPから高周波数成分のみ(>30Hz)を抽出すると,LFP-MUAとLFP-CBVOISの関係性において,反対側反応と同側反応とは,類似した線形スケール因子となり,両側刺激に対する総反応を考えた場合でも,LFPの高周波数成分とMUAと皮質循環反応とが,互いに線形的に相関することになった。これらの結果は,異なるパターンの皮質プロセスに依存した,LFPとMUAと皮質血液循環の関係性における多様性を示す。また,LFPの高周波数成分,特にガンマ周波数帯域のLFPが,LFP,MUA,皮質血液循環との関係に内在する非線形性-多様性を調整するカギとなることを証明した。
|