Research Abstract |
咀嚼機能は,全身の運動機能が低下した寝たきり老人でも行われる機能であり,この機能の必要性・重要性が注目されている.本研究は,咀嚼運動時における脳内血流の変化を明らかにする目的で,食品の味の違いが咀嚼時の脳内血流と咀嚼運動に及ぼす影響を調べた. 23〜36歳の健常者10名に苦味の異なる3種類のグミゼリー(普通,やや苦い,苦い)を主咀嚼側で20秒間咀嚼させた時の両側の咬筋筋活動を日本光電社製多用途計測装置,また両側の脳内血流を浜松ホトニクス社製近赤外分光装置を用いて同時記録した.なお,近赤外分光装置の測定プローブは,照射部と受光部の距離を4cmとし,両側の咀嚼運動野相当部の皮膚上に毛髪をかき分けて,開閉口運動に最も反応する位置に設定した.分析は,咀嚼中の前半10秒間と後半10秒間における咀嚼回数,咬筋筋活動の積分値,脳内血流の変化量について, Bonferroniの多重比較により食品間で比較した.なお,脳内血流は,咀嚼前の安静時10秒間と咀嚼中の10秒間との変化量を算出した. 咀嚼中の前半10秒間では,咀嚼回数,咬筋筋活動の積分値,脳内血流の変化量は,いずれも一定の傾向を示さず,苦味間に有意差が認められなかった.咀嚼中の後半10秒間では,咬筋筋活動の積分値は,一定の傾向を示さず,苦味間に有意差が認められなかったが,咀嚼回数と脳内血流の変化量は,どちらも苦い味で最も少なく,やや苦い味,普通の味の順に多くなり,苦味間に有意差が認められた.これらのことから,食品の味の違いは,咀嚼回数や脳内血流の変化の大小に影響を及ぼすが,咀嚼筋筋活動に影響を及ぼさないことが示唆された.
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