Research Abstract |
摂食機能,特に咀嚼機能は,全身の運動機能が低下した寝たきり老人でも行われる機能であり,この機能の必要性・重要性が歯科領域のみならず医科領域でも注目されている.今後の歯科臨床で極めて重要な咀嚼機能を明示するためには,咀嚼運動時における脳内血流の変化を詳細に調べ,明らかにする必要がある.本研究は,咀嚼運動と身体運動が脳血流に及ぼす影響を明らかにする目的で,事前に実験の主旨についての説明を受け,同意した健常者10名(19歳~42歳)に咀嚼運動,指タッピング運動,動的掌握運動を各20秒間行わせ,各運動前(安静時),運動中,運動終了後の脳内血流を浜松ホトニクス社製近赤外分光装置NIRO200を用いて両側の咀嚼運動野と身体運動野で記録した.なお,咀嚼運動は,軟化したチューインガムを主咀嚼側で咀嚼させた.指タッピング運動は,親指と他の指との間で人差し指,中指,薬指,小指の順に行い,動的掌握運動は,5指を同時に開閉させて行った.分析は,はじめに運動前,運動中(運動開始10秒後),運動終了1分後の3セッションの各10秒間における両側の脳血流量の平均値を算出した.次いで,脳血流の経時的変化を調べた後,運動前と他の各セッションとの間で比較した.さらに,運動前と運動中との脳血流の変化量について,3種類の運動間で比較した.その結果,咀嚼運動,指タッピング運動,動的掌握運動時の脳血流は,いずれも運動中に有意に増加したが,運動終了後に減少し,運動前の状態に回復した.また,脳血流の変化量は,咀嚼運動時が最も大きく,以下指タッピング運動時,動的掌握運動時の順に有意に小さくなった.これらの結果から,咀嚼運動の方が他の身体運動よりも脳を活性化することが示唆された.
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