Research Abstract |
本年度は8月に昆明=ハノイ回廊の中核ともいうべきハノイとラオカイにおいて,12月には雲南省側の,同回廊通過地域の一部分を形成する,昆明,文山州麻栗坡県においてそれぞれ調査研究を行った結果,次のような成果が得られた。(1)南寧=ハノイ回廊と比較すると,昆明=ハノイ回廊の建設は遅れており,雲南省領内においても高速道路,鉄道(標準軌新線)は部分的にしか開通していないという状況であり,ベトナム領内においてはようやく高速道路の建設が開始された段階にある。(2)ラオカイ国境経済区では,中国側の事情でワン・ストップの通関システムが実現するに至っていない。(3)南北回廊を通じて海への出口が複数ある雲南省にとっては,原油や天然ガスの確保からミャンマー経由のルートへの関心が高まっている。また,10月10日には,ベトナム社会科学院中国研究所所長のドー・ティエン・サム氏,ランソン省科学技術局長のルオン・ダン・ニン氏,雲南大学国際関係研究院の畢世鴻氏をゲストに,アジア政経学会全国大会の特別文科会として国際ワークショップ「中越関係の現状と展望-二回廊一経済圏を中心にして」を開催した。そこで提起された,(1)中越間において,南シナ海の群島の領有をめぐる紛争が両国間の深刻な懸案となりつつあること(2)二回廊建設計画の進捗の遅れを打破するために科学技術を投入すべきである(3)雲南省にとって,南北回廊の一つとしての昆明=ハノイ回廊はその短距離と安定性において優位性をもつものの,管理体制の不備やインフラの未整備などの欠陥が存在するという論点は,回廊建設遅延の原因を考察する上で,本年度の調査結果と共に本研究課題が今後留意すべき点である。さらに,二回廊計画の前史を理解するため,モスクワのロシア連邦対外政策文書館において,短期間の文書調査を行い(2010年3月),1950年代後半からその原型ともいうべきものが構想されていたことがわかった。
|