2008 Fiscal Year Annual Research Report
ネオ・リベラリズムの潮流下での移民政策改革の矛盾と移民の社会運動
Project/Area Number |
20402037
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
小井土 彰宏 Hitotsubashi University, 大学院・社会学研究科, 教授 (60250396)
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Keywords | 移民政策 / アメリカ合衆国 / エスニシティ / 外国人労働者 / ネオリベラリズム / 社会運動 |
Research Abstract |
本年度は、西海岸・東海岸における社会運動団体を中心としたフィールド調査を中心として、ブッシュ政権末期の移民政策の社会的影響、移民運動の戦略、今後の移民改革の方向について調査分析を行った。まず、08年7月末〜9月上旬には、ロスアンゼルス、サンディエゴ両市において、次いで09年3月にはニューヨーク市とその近郊地区において、移民支援団体、人権団体、労働組合等に対して聴き取りを試み、総計30以上の団体と個人に平均90分程度の詳細なインタビューを実施した。以下の3点が明らかになった。1.ブッシュ政権第二期後半において大規模に展開されてきた国内の労働現場での非合法移民への一斉検挙raidsは、従来にない多数の検挙者を生み出し、移民自身とその家族に大きな犠牲を強いているが、その公式の目標にもかかわらず、必ずしも全体的な非合法滞在者の抑制ではなく、新しく成立した移民取締り機関(ICE)の正統性の獲得のための数値目標主義が大きく作用していた。同時に現場での取締りにおいては、実質的な企業活動を阻害せずに、特定の非合法移民集団を排除する結果となっている。2.移民団体は、2006年春の移民運動以前より、規制強化への批判と移民改革への希求による組織化を地域を越えて行っており、06年の運動の高揚は単なる反移民の規制強化への反発を超える広域的でエスニック集団を超えた基盤を持っていた。この運動基盤は、2008年の大統領選挙におけるラティーノを中心とする移民票の動向に影響を与え、さらに改革の挫折後の持続的な改革運動を支えている。3.西海岸においてはラティーノ系の運動のもつ比重が決定的であるが、NY地域においてはより多元的な移民運動が形成されつつあり、ラティーノの拡大の中でもそのようなネットワーク構造が重要な役割を果たしており、このような複合的な運動組織の形態と論理の特徴についてはさらなる分析が必要と思われる。
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