2011 Fiscal Year Annual Research Report
旧ソ連邦セミパラチンスク核実験場周辺住民に多発する顎顔面口腔疾患の分子疫学的研究
Project/Area Number |
20406030
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
岡本 哲治 広島大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (00169153)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉岡 幸男 広島大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (20335665)
福井 康人 広島大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (90363085)
星 正治 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (50099090)
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Keywords | セミパラチンスク核実験場 / 低線量被曝 / 顎顔面口腔疾患 / 分子疫学 / 先天奇形 / Tie-2 / 唇顎口蓋裂 / 歯周疾患 |
Research Abstract |
セミパラチンスク地域病院口腔外科で診断に苦慮していた、核実験場周辺住民で、全身的に血管腫を有する患者3名の末梢血よりDNAを抽出し、MSX-2、EDA遺伝子、Tie2、pit-x2、sonic hedgehog、patched遺伝子、および種々の血管形成に関与する遺伝子変異についてPCR-SSCP法およびそれに続く、direct sequence法にて検討した。その結果、血管平滑筋細胞の増殖・分化に関与するTie-2遺伝子のチロシンキナーゼ領域およびC-末端領域をコードするexonの遺伝子変異を明らかにした。症例1では、Tie-2遺伝子のチロシンキナーゼ(TK-1)領域のA2659T変異を認めた、この変異はGlutamine→Histidine(Q837H)のアミノ酸置換を示唆した。症例2では、Tie-2遺伝子のTK-1領域のG2646A変異を認めた、この変異はGlycine→Aspartic acid(G833D)のアミノ酸置換を示唆した。一方、症例3では、TK領域ではなく、TK-2のC-末端コード領域にA→G変異を認め、同変異はAsp1065Glyのアミノ酸置換を示唆した。これら変異により、Tie-2のリガンドであるAngiopoietin-1,-2に依存しない持続的なTie-2受容体のTKの活性化を引き起こすことにより、平滑筋細胞への分化が抑制されることで血管腫(静脈奇形)が発症している可能性が考えられた。この結果は、Tie-2遺伝子が放射線感受性遺伝子である可能性を示唆している。今後、さらなる詳細な検討が必要である。 さらに、SNTS周辺住民の永久歯エナメルを用いて、electron spin resonance(ESR)法で各個体の吸収線量評価を行った。対象は、1949年に旧ソ連邦により行われた最初の核実験で最も汚染された、爆心地から100kmに位置するDolon地域の住民、さらに1956年8月24日に実施された核実験の影響を強く受けたUst-Kamenogorsk city、Shemonaikha地域の住民である。これら地域住民から歯周病などのため抜歯された大臼歯が用いられた。対照として、核実験場から400kmはなれた核実験の影響を受けていないKokpekty地域の住民由来大臼歯を用いた。その結果、自然被曝線量を差し引いて、核実験の開始前にエナメル質が形成されたDolon地域住民の大臼歯では、最大450mGyの被曝線量を認めた。また、Ust-Kamenogorsk cityおよびShemonaikha地域では、同様に114mGyおよび110mGyの被ばく線量を認めた。一方、核実験後にエナメル質が形成された大臼歯では100mGy以下を示した。これらのデータは、今までの線量評価とよく一致しており、本方法は放射線被曝後40年以上経過しても被爆線量評価が可能な、有用な方法であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、セミパラチンスク核実験場(SNTS)から北東に400km離れ中国ロプノール核実験場から1000km離れている、中国国境に近いカザフスタン共和国のマカンチ、ウルザール、タスケスケン地域在住の住民の口腔内検診、唾液および血液採取を実施する予定であったが、SNTS周辺住民に比較的多い血管腫の患者の遺伝子診断を行い、有用な結果を得た。また、爆心地から100kmに位置するDolon地域の住民、さらに1956年8月24日に実施された核実験の影響を強く受けたUst-Kamenogorsk city、Shemonaikha地域の住民の歯科治療時に得た抜去歯牙のエナメルを用いてelectron spin resonance (ESR)法で各個体の吸収線量評価を行い、従来の線量調査結果と相関する結果を得ることができたことから、同方法の有用性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は最終年度であるため、今まで得たデータを、各項目毎に統合的に整理する。口腔疾患(歯周疾患、う蝕)と被ばく線量の関係、口腔内常在菌(PCR法)と口腔疾患(歯周疾患、う蝕)および被ばく線量との関係、顎口腔先天異常(唇顎口蓋裂、癒合歯、血管腫、頭蓋癒合症、など)と被ばく線量の関係、小児の健康調査、体重、身長と親の被ばく線量との関係、などを統合的に纏めることを目指す。今後の改善策を検討する上で以下のような問題点を考慮する必要がある。つまり、カザフスタン共和国は近年急速に経済状況が良くなっているが、都市部と核実験場周辺地域との地域格差はますます広がっていて、SNTS周辺住民は今でも満足な医療を受けることは出来ない。
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Research Products
(4 results)