Research Abstract |
今年度は,昨年までの実験データの分析を進めると共に,新たに6名の被験者に対して従来の顔表情画像等3種の指標に加え「心拍周波数」を追加した実験とそのデータからの情報抽出および分析を行った。この実験で被験者には3種(快・不快・中立)の刺激映像(音声付)を27本×2分間提示した。この分析には,これまでに検討した方法(拡張を含む部分空間法,正準相関分析,判別分析)のうち,本研究の目的に添って最も良好な結果を得た正準相関分析(CCA,カーネル化含む)を利用した。 上記4種類の計測データの内,全被験者を通して,刺激映像に対する主観評価(-4~+4の9レベル)との関連性が明確なのは瞳孔径(対,鎮静-覚醒の評価)のみであった。顔温度と心拍周波数は被験者毎に全く異なる変動傾向を示し,顔表情については,なるべく強く表出させる工夫にもかかわらず,弱い表情しか表出しなかった。顔温度のこの変動傾向は,従来から複数の個別の研究で報告された結果と同等であるが,条件を統一した精密な測定でも同様の結果が得られたという意義がある。また,心理実験で良く知られた自発的な表情表出の困難さは,本実験結果においても見られ,本研究の感情推定精度を低下させた。 上記の変動傾向のため,全被験者のデータを総合した感情の推定実験を避け,被験者ごとに推定実験を行った。ここで顔面上38点の座標(表情),顔面全体及び4領域の平均温度とその時間差分,心拍周波数,瞳孔半径の4種類の特徴量をまとめた86次元ベクトルで,種類毎にベクトルノルムを1に正規化した。Cross Validationに基づくCCAとKCCAのそれぞれによる感情の推定結果(-4から+4の範囲)は,[快不快,覚醒鎮静]の推定値の主観評価値からの平均誤差が[1.94,1.29],[1.77,1.28]となり,本手法により感情の推定が低い精度ながら可能であることが判った。
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