Research Abstract |
我々は,コップなどの道具を迷うことなく瞬時に見つけ出すことができる.しかし,初めて見る使用方法を知らない道具では,見たり聞いたりしただけではその道具を使いこなせないだけでなく,形状やサイズが異なる同種の道具を見ても認知できないであろう.このような観点から,本研究では,道具などの対象物認知には感覚・運動経験が重要な役割を果たしていると考えており,「把持して使用する道具の対象物認知において,感覚・運動経験により獲得した手の身体モデル(内部モデル)が重要な役割を果たしている」という仮説をたてている.そこで,手の身体モデルを学習するための新しい実験パラダイムおよび実験システムを構築した.手の身体モデルを学習するための基本的アイデアは,手形状を変形した手と対象物をモニタに表示し,その画面を見ながら対象物を把持する把持運動課題を繰り返し実行することである.まず,手の身体モデルの学習に必要な条件を明らかにするために,手形状を変形しない状態での能動的運動条件,手形状を変形した状態での能動的運動条件,受動的運動条件,観察条件について実験を行った,この結果,能動的条件では手の身体モデルの学習が完了したが,受動的条件では完了しない(または非常に遅く),観察条件では学習が進行しないことが明らかにした.さらに,コップらしさ,使い慣れたコップのイメージなどのそれぞれの項目と学習した手の身体モデルとの関係について調べた.この結果,被験者が最もコップらしいと感じる幅は手の身体モデルの変形量に対応して変化した.一方,被験者が日常使い慣れたコップを1つイメージし,そのイメージしたコップの幅は学習した手の身体モデルの変化には無関係であった.つまり,手の身体モデルは使い慣れた対象物のイメージには無関係であるが,最もコップらしいと感じる,つまりコップの対象物概念と密接に関係していることを示している.
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