Research Abstract |
我々は,コップなどの道具を迷うことなく瞬時に見つけ出すことができる.しかし,初めて見る使用方法を知らない道具では,見たり聞いたりしただけではその道具を使いこなせないだけでなく,形状やサイズが異なる同種の道具を見ても認知できないであろう.このような観点から,本研究では,道具などの対象物認知には感覚・運動経験が重要な役割を果たしていると考えており,「把持して使用する道具の対象物認知において,感覚・運動経験により獲得した手の身体モデル(内部モデル)が重要な役割を果たしている」という仮説をたてている.そこで,手の身体モデルを学習するための新しい実験パラダイムおよび実験システムを構築した.手の身体モデルを学習するための基本的アイデアは,手形状を変形した手と対象物をモニタに表示し,その画面を見ながら対象物を把持する把持運動課題を繰り返し実行することである.21年度には,新たに学習した手の身体モデルと対象物認知との関係について調べた.手形状は母指と指示指の一部のリンク長さを変えることにより変形して画面に表示し,把持運動課題を繰り返すことにより,新たな手の身体モデルを学習した.その直後に,手は表示しないで,様々な大きさの円筒形を1つずつ表示し,コップとして見なせるかどうかをYes/Noで回答してもらった.この結果,手形状の変形により変化した指先幅に対応してコップと見なすサイズ(幅)も変化した.また,実際に手の身体モデルを獲得しているならば,右手で学習した効果が左手に転移しないはずである.この観点から調べた結果,左手に転移しないことを明らかにした.これらの結果は,手で把持して使用する道具などの対象物認知において,手の身体モデルが重要な役割を果たしていることを示唆している,また,前年度に購入した左手用計測装置を用いた実験環境を構築し,22年度に使用して研究を進める予定である.
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