2011 Fiscal Year Annual Research Report
環境データ解析のためのベイズ的方法の開発とその応用
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20500266
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Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
柏木 宣久 統計数理研究所, データ科学研究系, 教授 (50150032)
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Keywords | 環境統計 / 識別問題 / ベイズ / 生態リスク評価 / 発生源解析 / 要因分析 / 季節変動モデル / 空間サンプリング |
Research Abstract |
環境問題における統計的問題、特に生態リスク評価、発生源解析および環境化学物質測定の要因分析に現れる識別問題を解決するためのベイズ的方法について研究した。また、開発した方法を実際の環境問題に適用し、方法の実用性を検証すると共に、環境問題自体の解決にも尽力した。 生態リスク評価については、ハザード比等の恣意的な指標に代わる合理的な指標として提案された、化学物質の影響を受ける生物種の割合を示す期待影響割合を利用するため、実際のデータだけを頼りに推定すると許容できない程の偏りが生じる場合が多いとされる、化学物質の環境濃度分布と化学物質に対する生物種の感受性分布、および両分布に基づき計算される期待影響割合を、偏りを最小限に抑えて推定できるベイズ的方法を開発し、河川水に含まれる金属の生態リスク評価に使用した(Hayashi and Kashiwagi,2011)。 また、化学物質の急性生態毒性から慢性生態毒性を推定する方法についても検討した。生態保護にとって、急性毒性よりも慢性毒性の方が重要であるが、慢性毒性試験は多くの時間と費用を要するため、慢性毒性データは非常に少ないのが実情である。そのため、比較的豊富に存在する急性毒性データから慢性毒性を精度良く推定する方法を開発する必要が生じていた。 発生源解析については、発生源組成の精密化を図るため、PCB製品の揮発に伴う組成変化について検討した(今井 他,2011)。 環境化学物質測定の要因分析については、底質中有機スズの測定データを対象に、方法について更に検討した。 以上の話題に加え、地球温暖化に伴う日本沿岸域の水質変化、および土壌中POPsの汚染診断法についても検討した。水質変化については、長期変動傾向を推定するための季節変動モデルを開発し、東京湾の各種データに適用した(二宮 他2011; 岩渕 他,2011; 永山 他,2011; 柏木 他, 2011,2012)。また、土壌中POPsの汚染診断法については、空間サンプリングとその誤差評価について検討した(柏木,2011,2012)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生態リスク評価については、予定していた課題が一段落し、新たな課題に取り組み始めたため、計画以上と言える。発生源解析については、発生源データの整備に時間を要しているが、モデル開発に不可欠な作業なので、計画通りと言える。要因分析については、他の課題に時間を取られ検討が進まないため、計画以下と言える。また、期間中に浮上した新たな話題について検討し成果をあげているので、計画以上と言える。総合して、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は平成24年度で終了する。しかしながら、新たな環境問題が次々と浮上してきており、こうした問題に対処するためには、研究を継続して実施する必要がある。切れ目無く課題が採択されることを臨んでいる。ただ、一人で対処できる範囲は限られているため、環境統計の組織化を図らなければならないだろう。
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