Research Abstract |
本研究は,バスケットボール競技において,一回性的で多様な表層でのスポーツ現象を支えて,その生成や構成に根拠を与えている深層での仕組みを「スポーツ構造」(佐藤,1992)という分析装置を用いて捉えることで,「スポーツ構造がバスケットボールの競技力を規定する」という独自の命題設定から,そのスポーツ構造を構成する,身体性,知性,感性という三つの契機の内,身体性と知性を基礎づけ且つ特徴づけることで最も重要と考えられる感性的契機の究明を目的としている. この目的を達成するために,三年計画の一年目である本年度は,まず,バスケットボールの専門書,並びに,「構造」や「感性」に言及する様々な学問領域の専門書の渉猟に務めた.次に,その「感性」という契機を考察するための端緒として,これまで何れの研究者も着目してこなかった「運動形態」と「差異論的アプローチ」という観点から「バスケットボールの競技特性」の概念的把握を試み,上に示した本研究全体に通底する重要な命題である,「スポーツ構造がバスケットボールの競技力を規定する」ということについての前提条件の理論化ないし定式化を行い,その成果を『体育学研究』にて発表した.そして,本研究の大前提となるこの成果をもとに,「競技者における感性について究明を行った.具体的には,マイケル・ジョーダンという希有のスーパースターを採り上げ,バスケットボールのみならず,その他の競技をも超越したカリスマあるいは最も好まれる競技者として,「美徳の具現者」と見做された彼の文化的テキストとしての意味内容の系統的な分析を,彼の自伝や彼に言及する評伝のおよそ70冊の文献とカルチュラル・スタディーズ,構造主義,ポスト構造主義,記号論といった分野の数々の著述をもとに行うことで,彼の象徴化されたペルソナについての美的・倫理的価値観を考察し,その成果を未公刊ながら纏めた.
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