Research Abstract |
高地肺水腫の発症に対する遺伝子および環境の素因の関与を検討するために,高地肺水腫が発症しやすいモデル(WKY)と発症しにくいモデルラット(F344)に慢性低酸素および急性低酸素を曝露し,肺および肝循環動態,肺血管,体血管,骨格筋および肝臓におけるeNOSおよびVEGFについて検討した.安静時および急性低酸素曝露時の肺循環抵抗は,WKYに比較してF344で顕著に低値であり,L-NMMA(eNOS合成酵素活性阻害剤)投与によりF344で顕著に抵抗が上昇した.しかし,体血圧には両群で差がなかった.肺血流量の増加に対する肺動脈圧の上昇は,WKYに比較してF344で有意に低値であった.急性低酸素曝露後における肺動脈eNOSタンパク発現は,WKYに比較してF344で顕著に増大したが,体血管では差がなかった.さらに,肺動脈におけるNOS活性は,WKYに比較してF344で顕著に増大した.一方,慢性低酸素曝露後における肺動脈圧の上昇は,WKYに比較してF344で顕著に小さく,L-NMMA投与でF344は顕著にその上昇が増大した.また,慢性低酸素曝露後における肺動脈eNOSタンパク発現は,WKYに比較してF344で顕著に増大したが,体血管では差がなかった.慢性低酸素曝露後における肺血管透過係数は,WKYに比較してF344で顕著に低値を示した.肺胞および骨格筋におけるVEGF発現は,常酸素曝露において両群間に差はなかったが,急性および慢性低酸素曝露後においてWKYよりF344が顕著に発現が増大した.この結果から,高地肺水腫が発症しにくいF344は,肺血管の形態的な変化(血管拡張や血管数増加など)のみならず低酸素曝露に対して急性および慢性より反応性(とくに,肺血管収縮)の脱感作が関与するとともに,肺血管数の増加など(VEGF増加により血管新生)生じていることが考えられる.つまり,遺伝的に高地肺水腫を発症しにくいラットにおいては,遺伝的素因による反応ばかりでなく,環境変化(低酸素曝露)に適応した肺血管にリモデリングの能力が高いことが推察された. 連携研究者:桜井智野風(東京農業大学・生物産業学部・准教授)
|