Research Abstract |
本研究の目的は,タンパク質栄養の変動による脳タンパク質合成の調節メカニズムを明らかにすることである。今年度は,大脳,小脳における開始因子4E-BP1並びにS6K1のリン酸化に及ぼす食餌タンパク質の質的,量的影響について決定した。 1日3時間のmeal-feedingに慣れさせた24週齢の雄ラットを3群に分け,20%カゼイン,20%グルテン,20%ゼラチン食あるいは20%カゼイン,5%カゼイン,0%カゼイン食のいずれかをそれぞれ1回3時間のみ摂取させた。Yoshizawaらのポリクローナル抗体を用いたprotein immunoblot法に従い,大脳,小脳のS6K1,4E-BP1のリン酸化の程度について測定した。 大脳,小脳でのS6K1のリン酸化並びに大脳での4E-BP1のリン酸化の程度は,低栄養価タンパク質食,低タンパク質食摂取で堅調に低下した。一方,小脳における4E-BP1のリン酸化はタンパク質栄養の影響を受けなかった。 従来より,我々は,脳タンパク質合成がタンパク質栄養に依存して変動することを成熟ラットでも報告しており,これらの結果から,成熟ラットにおいて,食餌タンパク質の栄養価や量がタンパク質合成の翻訳過程開始因子のS6K1並びに4E-BP1のリン酸化を調節し,脳タンパク質合成に影響する要因の一つとして示唆された。今後次年度は,内臓,骨格筋などですでに翻訳過程の調節作用が知られている成長ホルモンやアミノ酸に焦点を当て,血中成長ホルモン,脳アミノ酸濃度に及ぼすタンパク質栄養の影響について検討し,タンパク質栄養による脳タンパク質合成のメカニズムの詳細について明らかにすることで,高齢者の脳機能に対するタンパク質栄養の役割について飛躍的示唆を得られるものと考えられる。
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