2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20500869
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
国分 充 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (40205365)
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Keywords | スターリニズム / ルリヤ |
Research Abstract |
本年度は、革命からスターリニズム期を生きのびた世界的に著名な(神経)心理学者ルリヤについて調べた。主に行ったのは、彼の二種の自伝の比較である。ルリヤには、ソビエト時代にUCSDのCole教授の勧めで書いた自伝が知られていたが(1979年)、Coleは、ソビエト崩壊後の2006年、ソビエト時代には当局の検閲のために書けなかったこと等を加筆した彼の自伝を再度出版した。この資料の検討を、2009年に我々が行ったColeへのインタビューを踏まえつつ、主に行った。新たに記されていたのは以下のようである。(1)20年代のエイゼンシュテインとの深い親交。(2)20年代後半の精神分析批判は前書に記したよりもっと深刻であったこと。(3)30年代の中央アジア探検は農業集団化と結びついている(と書かれている)こと。(4)30年代半ばの双生児研究に係わっては、粛清された医学生物学研究所所長レヴィットを支持する側にあったこと。(5)医学部への入学に関しては、ヴィゴツキーがルリヤの父に、ルリヤを公の場から隠せと強く迫ったがゆえであったこと。心理学的テストに反対する布告(児童学批判か)が出されルリヤはそのターゲットの一人であったこと。(6)1950年に神経外科研究所を失職したのは、反ユダヤ運動たる"コスモポリタン批判"によること。(7)1952年、いわゆるパブロフ会議で十分にパブロフ的でないとして強く批判されたこと。(8)"クレムリン医師団事件"では、逮捕は時間の問題と覚悟し、ルボフスキーによれば、朝夕出勤と退勤を一緒にし、それは逮捕されても家族にそれを伝えてもらえるようにと考えてのことであったこと。以上、ルリヤは、児童学批判、コスモポリタン批判、パブロフ会議、クレムリン医師団事件という、関連する知識人を巻き込んだいずれの事件でも逮捕粛清の危機にあったことがわかったが、いずれでも紙一重で切り抜けている。それを可能した要因・条件についての検討は今後に残された。
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