2010 Fiscal Year Annual Research Report
経験則的鍛冶技術の調査ならびに人間工学的研究-泊鉈について-
Project/Area Number |
20500872
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
中村 滝雄 富山大学, 芸術文化学部, 教授 (60198215)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長柄 毅一 富山大学, 芸術文化学部, 准教授 (60443420)
河原 雅典 富山大学, 芸術文化学部, 准教授 (30389960)
ペルトネン 純子 富山大学, 芸術文化学部, 助教 (20310493)
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Keywords | 焼戻し / 止め焼き法 / 硬度 / 働態観察 / 形態と機能 |
Research Abstract |
平成22年度は、金属材料学の視点から泊鉈の金属組織と硬度を観察し、特に止め焼き法による焼戻ししの調査と共に、人間工学の視点から使用者の働態観察とその解析を行った。その結果、泊鉈は一般の刃金材料(炭素鋼)と異なり、含有炭素量が0.42%でS45C相当材であり、刃先の硬度が平均670HVで比較的低い値を示した。しかし、刀身地金は硬度がやや高い154HVであり、SS400相当材であった。また、刃先から刀身中央部(割込み奥部)における炭素鋼の硬度を計測したところ、刃先が658HV、シノギ部付近が657HV、刀身中央部が339HVであり、止め焼き法や割込み法の特徴が現れていた。これらから、打撃によって切断する泊鉈の刃先に欠け難い強靭性、比較的薄い刀身地金に耐衝撃性と曲がり難い強度を与えるため、適切な材料や製作技法の選択を行い、硬度分布にしていると考察した。更に、ミネ部から余熱を移動させて行う止め焼き法を、サーモトレーサで連続観察した結果、長い刃渡りにおける酸化色(テンパカラー)を目安に、局部的な冷却を行うことで、移動する焼戻し温度と共に刃先硬度を的確にコントロールしていることが判明した。一方、泊鉈の使用者は凹状に湾曲した刃先ラインと長い刃渡りを活用し、スライドさせて切断する(引き切り)道具として、その方法を使用者間で伝承してきた。しかし、高速度カメラによる働態観察の結果、被切断物に刃先ラインが直角に当たり、スライドさせていない事が判明した。そのことから、伝承されてきた切断方法は、その瞬間に手首の返しを利かせて加速度を与え、軽い泊鉈を被切断物に強く切り込ませる行為の表現であると考察した。更に、独特の形態をした刀身とトンビ(突起)ならびにその角度は、通常のポジションに無いものの切断や切断物(枝など)を蔓などで結縛する時、また被切断物を引き寄せる時などの多様な場面で効果的であり、石などの硬い物体から刃先を保護するに止まらない、鉤の機能を有していた。
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