Research Abstract |
本研究は,幅や高さが数10〜数100mmサイズのナノ流路を利用して,生体分子を1分子ずつ検出しつつソートする分子ソーターを実現するために必要な要素技術の開発を目的としている。本年度は,主にナノ流路と付随するナノ構造を基板上に作り込んだナノデバイス作製のための製作手法の検討と,デバイス内部の1分子の様子を観察したり,また電気測定や電気力学的分子操作を実現する上での外部インターフェースの検討と試作を進めた。 当初は,申請者が以前に開発した収束イオンビーム加工装置(FIB)を応用した手法にてナノ流路などのナノ構造を作製する計画であったが,FIBによる加工は1つ1つが手作りとなるため加工誤差が大きく,従ってそのデバイスを使った実験での測定誤差が大きいものとなってしまい,十分定量的なデータを得ることが難しことが判明した。さらに作製の手間や時間もかかる欠点が露呈し,デバイス作製から測定までの一連の作業を効率良く進める新手法の検討が必要であると判断した。そこで,FIBだけでデバイス上の全てのナノ構造を加工するのではなく,従来のフォトリソグラフィーとプラズマエッチングとを組み合わせて,例えば,加工深さが浅いため比較的短時問の作業で作製出来るプラズマエッチング用のマスク構造部分をFIBで作っておき,そのように用意した多数の基板を1回のプラズマエッチングで処理することで,デバイス問の加工のばらつきを最小化する手法を検討した。その結果,ガラス基板上に接着層としてTi(厚さ2nm)とマスク材のPt(厚さ20nm)をそれぞれ真空蒸着し,一旦フォトリソグラフィーによってμmサイズまでのパターニング後,nmサイズの構造をFIBによって加工することに成功した。また,フォトリソグラフィーとFIBによって形成したPt/Tiパターンをマスクとして,CF4+02を使った反応性イオンエッチング(RIE)法によりガラスをエッチングし,Pt/Tiマスクの反転ナノパターンをガラスに転写することにも成功した。さらに,多数のデバイスを一度にプラズマエッチングすることで,各デバイス問で均一な流路深さを持つナノ流路を作れることも確認し,本手法によって素子間のばらつきを低減することに成功した。 インターフェース部分に関してであるが,ナノ流路内を観察するためには作動距離(レンズ表面と試料までの距離)が約100μmの高NAかつ油浸対物レンズを使わなくてはならない。電気的測定のためのノイズ低減には測定部位を電磁シールドする構造が望まれるが,わずか100μmの距離内に従来のような構造の電磁シールドを構成することは困難である。そこで,本研究ではこうしたナノデバイス用の電磁シールド構造の基礎検討と検証実験から進めることにした。具体的には,顕微鏡で内部を観察するためにはシールド部分が透明でなくてはならず,かつ電磁シールド材には導電性が要求されるため,まずは透明導電体としてInldium Tin Oxdde(ITO)をスパッタにより着膜した厚さ約100μ皿のガラス基板でナノ流路をシールすると共に,電磁シールド効果が得られるかどうか試みた。さらに,デバイス内部のナノ電極と外部とを接続するコンタクト部分の検討もすすめ,デバイスを簡単に交換可能で,かっコンタクト部位での接点抵抗や電気容量が極めて小さいコンタクトパッドの試作にも成功した。ところで,このような電気的・光学的なインターフェースは,本研究テーマでは脇役的存在ではあるが,実は将来の産業化に向けてのシステム化には非常に重要となる部分であり,電気的・光学的なインターフェースを必要とするナノ流体デバイス応用には必須の要素であるため,本研究から得られた知見はそうした未来のナノ流体デバイス研究・開発に重要な貢献となるであろうと期待している。
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