Research Abstract |
企業の規模を表す量として資本・売上・利益などが考えられるが,そのいずれもが,ある閾値以上の高額領域で幕則に従い,それ以下の中額領域で対数正規分布に従うことが知られている。最近の研究によりこの現象は,経済の平衡状態を表す詳細釣合則と企業規模による成長率分布の違いを示す非ジブラ則から理解できるようになった。企業規模など経済に重要な量を扱う際,企業規模による成長率分布の違いを考慮することは非常に重要だと考えられる。この非ジブラ則は,企業利益のように成長率分布が線形のテント型で近似される場合に確認されたものであり,利益以外の企業規模量に関して分析を進め,さらにその応用として,企業規模による成長率の違いを考慮した信用リスクの研究に取り組むのが本研究の目的である。当該年度,以下の研究を実施した。 成長率分布が線形テント型の場合,中額領域で企業規模が大きくなるほど正の成長確率は減少し,負の成長確率が増加する(第1非ジブラ則)。一方,成長率分布が線形より裾野が広い場合,中額領域で企業規模が大きくなるほど正も負も共に成長確率は減少することが報告されている(第2非ジブラ則)。 裾野の広がりを表現するのに最も簡単な方法として,線形近似に補正項を加え,第1非ジブラ則を導出した議論を拡張し,第2非ジブラ則を定式化した。また,第1非ジブラ則が見られる企業規模量は正負値を取るのに対し,第2非ジブラ則は正値しか取らない量に観られることに注目し,売上の成長率は第2非ジブラ則に従うが,売上の年毎『差』の成長率には第1非ジブラ則が観られることを発見した。これは,売上の年毎『差』は正負値を取ることより理解できる。また,この現象を確率過程を用いた数値シミュレーションで再現することにも成功した。 この2つの非ジブラ則の違いを理解することは,信用リスクの分析を目的とする本研究には本質的である。
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