2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
千葉 惠 Hokkaido University, 大学院・文学研究科, 教授 (30227326)
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Keywords | 信 / 共約可能性 / 認知的徳 / 人格的徳 / 感受態 / 誇り / 信仰義認 / 業の律法 |
Research Abstract |
信の哲学の可能性を、信じる者にも信じない者にも共約的な次元を開拓することを通じて探索した。アリストテレスの『ニコマコス倫理学』における信および実践知の分析を通じてパウロの信理解との対話を行った。そのさい、J.McDowellの影響力ある論文「徳と理性」との対論を通じて、アリストテレス解釈における人格的徳と認知的徳の関係について独自の提案をおこなった。パウロの信の理解にも認知的側面と人格的側面のあることを明らかにし、アリストテレスとの対話が有効かつ実り豊かなものであることを明らかにした。魂の認知機能および人格的機能の分析を通じて、感受態が魂の態勢の徴表であることを明らかにした。そのさい、双方の誇りの分析を通じて、双方の信の理解が共約的なものであることを明らかにした。信の構造の分析において魂の認知的態勢と人格的態勢が相補的であること、それらの分析のもとにパウロの信仰義認論の新しい解釈の可能性を模索した。従来の「律法の業」に基づく義の理解が誤りであり、それは「業の律法」と訳すべきであり、そして「信の律法」に対比されることを明らかにした。神の意志としての信の律法に基づく義認をパウロは主張していたのである。信仰義認論が誇りの分析を通じてアリストテレスとも共約的であることの解明を通じて、パウロの神学的教説が哲学的次元をもっていることが明らかになった。これにより、パウロが自らを誇ることがあることと、神の前ではいかなる誇りも排除されたことに、何ら矛盾がないことが明らかとなった。
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