2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520007
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
渋谷 治美 Saitama University, 教育学部, 教授 (50126083)
|
Keywords | 価値ニヒリズム / ミシェル・フーコー / ルソー / ベルクソン / パノプティコン / ノモス / ピュシス / 開いた宗教 |
Research Abstract |
第二年度に当たる平成21年度には、まずM.フーコー『監獄の誕生』を研究した。当初なかった監獄が近代を迎えて整備され、ベンタムのいうパノプティコン(監視者の見えない中央監視塔)が考案されたが、思うほどに効果を発揮しなかったので、現代では施設としての監獄も建造物としてのパノプティコンも退したが、実はそれに代わって、いっそう目に見えない形での相互監視システムといわばヴァーチャルなパノプティコンが権力によって張り巡らされている、という論旨が読みとれた。これは渋谷が年来問題意識としてきた、ノモスの重層化・不可視的拡大によるピュシスのいっそう巧みな抑圧・疎外、という図式と重なる主張なので、貴重な成果であった。またこれは、価値ニヒリズムを主題とする本研究にも大いに資するところがある。引き続き『狂気の歴史』を研究している。 研究計画にはなかったが、ルソー『人間不平等期限論』『社会契約論』とベルクソン『道徳と宗教の二源泉』を再読した。ルソーの二冊を再読したことにより、これらと『エミール』との相矛盾する三項関係が鮮明に把握された。近代思想におけるルソーの矛盾はずっと現代にまで尾を引いているとうべきであろう。またベルクソンの主著を再読したことにより、彼の「開いた宗教」「開いた社会」の理念が、生物、歴史、政治経済等の合理的な考察に基づいており、現代でも活かされる可能性があることを発見した。これらの研究も本研究課題を進めるうえで、モダンとは何か、に関して礎石となる認識を提供してくれた。 反省としては、計画していたベンヤミン研究に手が回らなかったことである。また私の<マルクーゼ仮説>についても、最終年度の次年度にさらに集中的に仮説可能性を検証する必要がある。
|
Research Products
(2 results)