2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520007
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
渋谷 治美 埼玉大学, 教育学部, 教授 (50126083)
|
Keywords | 哲学 / 思想史 / ニヒリズム / 価値 / 疎外 |
Research Abstract |
今年度は結果的にM.フーコーに集中的に取り組んだ。昨年読んだ『監獄の誕生』に続いて、未読だった『狂気の歴史』『知の考古学』を読了した。『狂気の歴史』では近代ヨーロッパ社会が狂気をどのようにもてあましてきたかが綿密に辿られるが、フーコー特有の文の運び(と翻訳)のゆえか論旨がよく把握できなかった。しかし彼が狂気の研究に際して(自分では明言していないが)カントの『人間学』から多くを学んでいることは読みとれた。『知の考古学』は内容の難解さと翻訳の生硬さの相乗効果によりほとんど理解することができなかった。これほどに歯がたたない読書体験はヘーゲルの『大論理学』以来であった。これにより既読の『言葉と物』『性の歴史』と合わせてフーコーの主要書は一応読み終えた。その結果彼への評価として、思惟、社会、歴史の根底に存する構造を剔抉する作業の重要性は認めるが、その作業が人間の実相に戻ってこないかぎり与することはできない、と確信した。おりしも邦訳が出版されたフーコーの『カントの人間学』(新潮社)を読了したところへ、日本カント協会からその書評を依頼されたので、これに力を注いで執筆した(「人間と構造」平成23年秋刊行予定)。 当初の「研究実施計画」にあったマルクーゼ、ベンヤミンについては、遺憾ながら手をつけることができなかった。一因として、価値ニヒリズムの観点からしてモダン思想(ニーチェ、フロイトら)をフーコーらのポスト・モダン思想へと断絶的に接続した媒介者がマルクーゼではないか、という本研究課題の背骨となる仮説に対して確信が薄らいできたことがある。この自己批判を享けて今後、本研究課題にある、現代西洋思想と価値ニヒリズムの関係をどのように把握するべきか、再度構想を練る必要を自覚した。
|
Research Products
(2 results)