2008 Fiscal Year Annual Research Report
プラトン中期における「原因」概念とその後期に対する影響関係の検討
Project/Area Number |
20520013
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
今泉 智之 Mie University, 人文学部, 准教授 (30322978)
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Keywords | プラトン / 『パイドン』 / 原因 |
Research Abstract |
本研究は、「それ自体として独立のもの」、すなわちイデアが存在することを前提し、この世界の事物の成立をイデアとの関与で説明する、プラトン中期の著作『パイドン』の「イデア原因説」の内実を見極めるとともに、その考え方が、後期の始まりに位置する『テアイテトス』にどの程度影響しているかを検討することを目的とする。本年度は、『パイドン』でイデアの存在が前提されるのに先立ってなされている自然学者に対する批判、とくにアナクサゴラス批判の意義を検討した。当該箇所では「熱いものと冷たいものがある種の腐敗をするときに生物の組織はつくられる」「飲食をして、肉には肉が、骨には骨が付け加わると、小さい嵩のものが後に大きな嵩になり、小さい人間が大きくなる」「十が八より多いのは、二が加わっていることによってである」などの自然学説、さらに「知性が万物を秩序づけている」というアナクサゴラスの説が紹介され、批判されている。そこでは、アナクサゴラスが一方で知性のような非物質的なものを「原因」として立てておきながら、他方で空気、アイテールなどの物質をも原因と見なしていることの難点が指摘されている。プラトンはそのことを、人間の行為の原因として「知性」を立てながら、他方で身体の物理的な運動をも原因と考えることの不合理さになぞらえながら、説明している。本年度は、このように世界の成立を人間の行為の成り立ちと類比的に説明することの意義を、先行するアナクシメネス、ヒッポクラテスなどの考え方も視野に入れながら検討し、自然と人間の双方に当てはまる包括的な原理を探求することが当時のギリシア人の一つの傾向であったことを示した(「「自然」と人間--ギリシア思想の一側面」)。
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