2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520016
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
須藤 訓任 Osaka University, 文学研究科, 教授 (50171278)
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Keywords | 哲学 / 家族 / 歴史 / 正義 / 思惟経済 |
Research Abstract |
今年度も昨年度同様ショーペンハウアーおよびニーチェ関係や精神分析関係の文献の収集に努めるとともに、前者二人の哲学者の思想について、その家族関係に照らし合わせながら、考察を試みた。具体的成果としては、フロイトの翻訳(『フロイト全集』第12巻(門脇健と共訳、岩波書店))を上梓したほか、ショーペンハウアーについては妹のアデーレの中編小説「アリッチャの麗人」を取り上げ、そこに盛られた歴史観を析出した。この小説はドイツ本国でも未だ正式な出版のなされていないものであるが、研究代表者は1849年にとある新聞に掲載された初出形態を底本にし、2009年11月日本ショーペンハウアー協会にて公開講演として発表した。少なくとも本邦初の本格的紹介であり、考察の試みであると考えられる。近代初頭以降の世俗化の趨勢を不可逆的なものとして見定めるアデーレの歴史観は、兄アルトゥールのそれとは対照的なものであり、今後兄の思想との関連を探ってゆく上で、重要な論点となると判断される。また、研究代表者の従来からの研究対象であるニーチェに関しても、五歳のときになくした父カール・ルードヴィヒの影がその思想に対してどのような影を落としているかを考究し、「哲学と家族」というテーマについて、ショーペンハウアーだけでなく、その考察範囲を拡大し、今後の研究の展開に向けて、一つの道筋をつけた。ニーチェの評伝や妹エリーザベトの伝記に関する二つの書評(『図書新聞』2916号、2952号)も、そうした研究展開の延長上にある。その一方で、ニーチェ思想に関しては、いわばその本丸である「力への意志」-思想を俎上に載せ、「力への意志」の上昇・下降を測定する「(擬似)尺度」として「正義」を抉りだすとともに、ニーチェ思想における「思惟経済」の意義を明確化したが、これらは従来あまりはっきりとした指摘がなされてこなかった論点である。
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