2008 Fiscal Year Annual Research Report
生命倫理学における「関係性」と「欲望」の基礎的研究
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20520025
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
森岡 正博 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 教授 (80192780)
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Keywords | 生命倫理 / 応用倫理 / 生命の哲学 |
Research Abstract |
本年度は、まず生命倫理における「関係性」と「欲望」の観点が、日本の生命倫理の言説の中に、どのように現われているのかを検討した。脳死臓器移植に対する「人間関係指向アプローチ」の実態を分析し、そこに生命に関する多層的リアリティが現出していると考えられることを明確にした。また、70年代のウーマン・リブと障害者によって始められたマイノリティによる生命倫理運動において、「悪」の問題と、「内なる優生思想」の問題が問われていたが、その二つの問題に対するスタンスの取り方に重要な共通点があることが分かってきた。と同時に、内なる「悪」と「罪」と「欲望」という概念には、一枚岩的には捉えられない側面があることも明確になった。この点をさらに解明し、生命倫理を語る際の、新たな視座の基盤を固めることが、次年度に向けた課題となった。この研究成果は、フランクフルト大学で開催された学会にて発表し、有益な討論を行なうことができた。 次に、生命倫理の議論を哲学的に深めていくときに「生命の哲学」という枠組みが要請されるのであるが、その理論的検討を行なった。環境倫理学の領域で「将来世代への責任」論が展開されている。代表的な論者はハンス・ヨーナスであるが、彼の議論の前提には、「そもそも将来世代が将来存在する」という命題がある。だがこれは自明ではない。基本的問題として、「我々には将来世代を産出する義務があるのか」という哲学的問いが潜伏している。ヨーナスはこの点を深めていない。この論点を正面から問いなおし、短期的義務はあるが長期的義務はあるとは言えないという結論を導き出した。論文として刊行したので、今後の応答をもとに、さらに展開させていく予定である。 連携する研究者、院生たちと継続的な研究会を開催し、以上のテーマで共同研究を行なった。その成果を次年度に学会発表する予定である(応用哲学会)。また環境倫理学についても国際応用倫理学集会にてセッションを企画し、発表した。
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Research Products
(8 results)