2009 Fiscal Year Annual Research Report
清朝中国ムスリム学者劉智『天方性理』におけるミクロコスモスと世界認識
Project/Area Number |
20520040
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
仁子 寿晴 Kyoto University, アジア・アフリカ地域研究研究科, 客員准教授 (10376519)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒岩 高 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (60409365)
佐藤 実 大妻女子大学, 比較文化学部, 助教 (70447671)
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Keywords | 中国哲学 / 宗教学 / 自然学 / 形而上学 / スーフィズム / 朱子学 |
Research Abstract |
平成21年度は5回の研究会、および3回の研究会合宿(すべて三日間の日程で行い、それぞれの合宿で通常の研究会の四回分の時間を費やした)を行い、清朝期の中国ムスリム学者である劉智が著した『天方性理』の巻五、特にその前半にあたる六図説「真一三品図説」「数一三品図説」「体一三品図説」「三一通義図説」「自然生化図説」「名相相依図説」を詳細に分析するとともに、訳注作成作業を行った。以下はその理解の概要である。同書の巻二、巻三が自然学の分野、巻四が人間学、倫理学の分野に相当するのに対して、巻五は形而上学の分野にあたる。巻五前半で重要なタームは「真一」「数一」「体一」という三つの一である。これらはおおまかに一般的なイスラーム世界のスーフィズム思想にあるハキーカ(真理)、シャリーア(聖法)、タリーカ(修行道)に対応し、中国イスラーム思想における劉智の先駆者である王岱輿や馬注にも見える概念である。しかし比較的、王岱輿や馬注が通常のイスラーム世界で流通する構造のもとで把握するのに対し、劉智は彼らとまったく異なり、徹底的に数理的なアプローチを見せる。すでに巻二や巻三の自然学部分で顕著に見えたことだが、『天方性理』にはマテオ・リッチらイエズス会士の著作にある天文学・数学といった数理的なアプローチから大きな影響を受けている。それに加え、易学の数理性も受け容れている。この点こそが中国イスラーム思想史において劉智を独特な存在にするとともに、一般的なイスラーム思想史上でも彼を稀有な存在とする要因である。また儒教の影響を受けているとは言え、中国思想史においてもこの巻五に相当するものは見出せない。イスラーム思想と中国思想双方の勢力下にありながら、イスラーム思想と中合史沿おう双方に新たな局面を附け加える思想が清初期に生まれたことはきわめて重要な事実であると思われる。
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