2010 Fiscal Year Annual Research Report
清朝中国ムスリム学者劉智『天方性理』におけるミクロコスモスと世界認識
Project/Area Number |
20520040
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
仁子 寿晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 客員准教授 (10376519)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒岩 高 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (60409365)
佐藤 実 大妻女子大学, 比較文化学部, 助教 (70447671)
青木 隆 日本大学, 文理学部, 准教授 (20349947)
|
Keywords | 回儒 / 自然学 / 形而上学 / 太極 / 理 / 存在 / 神への帰還 |
Research Abstract |
当研究は、歴史、思想史、科学史、またイスラーム思想研究や中国思想研究などさまざまな分野の専門家が意見を戦わせることによって、従来、研究が困難であると言われてきた、中国人ムスリムが明末清初期に漢文で著した著作群に取り組んでおり、特にそのなかでも最高峰に位置する劉智著『天方性理』の多面的考察、思想的位置づけの確定およびそれらにもとづく訳注解の作成を目標とする。この著作は中国の伝統的な思考方式とイスラーム思想およびイエズス会士の著作を介した自然学思想が著者独自の構想にもとづいて再構成されており、一つの完結した思想をもつ。 平成21年度は当該著作最終巻である巻五の後半および巻三の前半を扱った。巻五後半は全世界の「存在」(有)への回帰を主な論題としており、そこでは、中国思想の「太極」「理」といったいわば究極的な概念とイスラーム思想における「(神への)帰還」という考え方が交錯し、当該著作の白眉であるとともに、慎重かつ正確な読解が要求される箇所でもある。あえて単純化すれば、劉智はここで中国思想には見られなかったあらたな形而上学を提示しようとしていると評価できる。今年度読解の成果についてはこれから検討をさらに重ね、当研究が2011年度以降発行する『中国伊斯蘭思想研究』上で詳細を発表する予定である。 これに対して人体の問題を扱う巻三前半は最終的な訳注作成を終え、成果公開準備はほぼ終了した(『中国伊斯蘭思想研究』第四号にて成果発)。劉智にとって人体は簡単に言うとマクロコスモスであるが、マクロコスモスの生成と逆の生成順序をもち、きわめて複雑な過程を経て生成する。このロジックの解明こそが巻三読解のカギであり、劉智の自然学思想およびその延長線上にある人間理解を正しく理解することにつながる。
|