2008 Fiscal Year Annual Research Report
イスラムのグローバル化による「イスラム共同体」の構造的変化についての研究
Project/Area Number |
20520054
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
八木 久美子 Tokyo University of Foreign Studies, 外国語学部, 教授 (90251561)
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Keywords | イスラム / イスラーム / グローバル化 / 共同体 / 権威 / ウラマー |
Research Abstract |
本研究は、グローバル化という事態を受けて、イスラム共同体が従来の中心と周縁の構造を解体させ、新しい構造を生み出しつつかることを検証することを目的としている。 今年度はエジプト出身でありながら、エジプトだけでなく欧米でも活動し、さらにはインターネットや衛星放送という新しいメディアを駆使して、さらに広い地域の人々に訴えかけている二人の「俗人説教師」と呼ばれている人物の活動に焦点を当てた。 まず、二人の活動が広い地域に亘っていることからもうかがわれるが、その言説を詳細にみると、二人はイスラム教徒はイスラム法の支配する地域である「イスラムの家」に生きるべきだという伝統的な見解を全くと言ってよいほど無視していることがわかった。欧米のように異教徒が多数を占める地域に生きることを問題ありとせず、世界のどこであろうと、その人の意思次第で、イスラム教徒はイスラム教徒として生きることができるとするのである。 次に、彼らがウラマーとして認められるような経歴を一切持っていないということも重要である。一般の大学を卒業し実業界で成功した人間が、イスラムの説教師として大きな人気を幅広く得ているのはなぜか。それは彼らの支持者が、彼らに別の意味での権威を見出すからである。つまり、自分たちの抱える問題について、この二人の説教師が熟知しており、そのためにもっとも的確なアドバイスを与えているという感覚を持つ。ウラマーに比べてイスラムの宗教テキストについての権威では劣っていようとも、人々の生活についてはより大きくな権威を持って語ることができるという評価が彼らへの支持を集めたのである。この点は、誰がウラマーなのか、その資格について厳密な規定もなく、認証する制度も存在しないというイスラム共同体のゆるやかな構造が生みだす新しい可能性を示唆しており、本年度の最大の成果であった。
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Research Products
(1 results)