2008 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ啓蒙主義期の知識人論における有用性/普遍性の対立の研究
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20520070
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
齋藤 渉 Osaka University, 大学院・言語文化研究科, 准教授 (20314411)
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Keywords | 啓蒙 / 教育思想 / 新人文主義 / F.A.ヴォルフ / W.v.フンボルト / バーゼドー / ニートハマー |
Research Abstract |
平成20年度の研究では、1、資料研究として、(1)フリードリヒ2世の啓蒙観、(2)新人文主義的教育理論の成立、2、理論研究として、コミュニケーション行為の理論をあつかった。 まず資料研究では、19世紀に出版されたフリードリヒ2世の仏語全集の主要部分を入手し、特にダランベールとの往復書簡に見られる両者の啓蒙観を検討した。そこでは、民衆に正しい/十分な情報を与えず、虚偽や欺瞞のもとに置くことが正当化されうるかが中心的問題となっている。これは理論研究(後述)において考察されるべき問題でもある。また、汎愛主義の著作を研究する一方、19世紀初頭の教育理論の状況を明瞭に示す、ニートハマーの『汎愛主義と人文主義の抗争』(1808)を詳しく見た。その上で、W. v.フンボルトとF. A.ヴォルフの往復書簡での古典ギリシアの教育的価値をめぐる議論をあとづけ、新人文主義成立の歴史的前提を確認した。 理論研究に関しては、特にハーバーマスの理論について検討した。ハーバーマスのいう了解志向的行為と成果志向的行為の対比は、フリードリヒ2世に見られるような「虚偽(=成果志向的行為)が正当化されうる」というタイプの啓蒙観を理解する上で重要な参照項となりうる。啓蒙期の中心課題が、了解志向的行為を範例とするコミュニケーションの場を社会統合の核に据えることだったとすれば、フリードリヒ2世はこうした課題と対立する社会観をもっていたことになる。了解志向的行為が社会統合を担うには、知識や教育の面における根本的変革が必須の前提条件と見なされていたが、18世紀においてこのような教育が可能だとすれば、古典文化を正しく摂取する以外に途はなかった。以上めような考察を通して、新人文主義的教育理論の歴史的・理論的前提がおおよそ確認できた。
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