2009 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ啓蒙主義期の知識人論における有用性/普遍性の対立の研究
Project/Area Number |
20520070
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
齋藤 渉 Osaka University, 大学院・言語文化研究科, 准教授 (20314411)
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Keywords | 啓蒙 / 教育思想 / 新人文主義 / フリードリヒ2世 / W.v.フンボルト / 知識人 / 有用性 / 普遍性 |
Research Abstract |
今年度は、1. 資料研究として、フリードリヒ2世の教育理論および教育政策について詳細な検討を行なった。彼の長い治世にわたって、教育に関する発言や政令は数多く見られるが、特に七年戦争後に展開される教育論は、一方で文化論と接し、他方で政治論とも交差する広がりをもっている。その特徴として、(1)精神ないし知的能力の涵養を第一の要請としてかかげており、この目的のために古典語教育(教員の養成、教授法や教育制度の発展、教科書や刊行物の整備を含む)を重視していること、つまり、のちの新人文主義者ら(フンボルトなど)の唱えた言語教育論の先がけとなっていること、また、この意味で、身分を問わずあらゆる人間に求められるべき教育を目指す<普遍性>志向の教育論であること、他方、(2)その標語として「社会の役に立つ人間」をかかげ、あくまで既存の国家体制を前提とした<有用性>を重視する教育論であることが挙げられる。一見対立する両者の性格のうち、後者(有用性)は、地域や宗派や身分によりバラバラの状態であった教育制度に対し、いわば<教育の公事化>を主導するための理念であったことを明らかにできた。 2. 理論研究としては、引き続き、ハーバーマスのコミュニケーション理論を参照する一方、特に19世紀初頭におけるネイション概念成立をあつかったギーセンらの知識人論を考察した。教育が、近代社会のなかで、その固有の位置価を獲得していくにあたって、国家(政治システム)との関係を確定することが肝要な問題となる。この問題を理解するには、ギーセンの分析の中心概念である集団アイデンティティの形成において教育が果たす役割・機能を考察しなければならない。今後は、こうした観点からフリードリヒ2世や同時代の教育理論と実践を詳細に分析するという課題に取り組んでいく予定である。
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Research Products
(4 results)