2008 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀前中期の江戸・東京における家族の実態と道徳思想
Project/Area Number |
20520075
|
Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
早川 雅子 Mejiro University, 社会学部, 教授 (70212305)
|
Keywords | 思想史 / 江戸・東京 / 民衆道徳 / 孝経 / 太宰春台 / 人別帳 / 家族社会学 / 歴史人口学 |
Research Abstract |
1.人別帳の収集:江戸の人別帳4本を新たに確認、収集した。(1)「慶応4年4月牛込放生寺門前町人別書上帳」(新宿歴史博物館所蔵)、(2)「明治1(慶応4)年3月渋谷宮益町人別帳」(白根記念渋谷区郷土博物館・文学館所蔵)、(3)「明治2年1月渋谷宮益町人別帳」(同前)、(4)「明治2年6月渋谷宮益町人別帳」(同前)である。 2.人別帳データベースの分析:安政4年4月から明治2年3月までの14年の間に塩町1丁目に在住した557世帯を対象に、町内居住期間における家族形態を分類、家族形態の移行を追跡した。(1)家族形態の特徴として、(1)有配偶世帯が全世帯の70%超で、村落の有配偶率に匹敵する、(2)家族世帯の半数以上は単純家族世帯で、幕末江戸の人別帳の分析結果とほぼ同率。(2)家族形態の移行として、(1)単純家族世帯は、主に経済的理由から再生産される、(2)定着を遂げた家族世帯では、「直系家族」の構造がみられ、親から子へと世代や家業を継承する理念が形成されつつあったことを指摘した。 3.道徳思想の考察:18世紀中後期の孝道徳の特徴を、『孝経』を資料にして考察した。『孝経』には古文と今文との二種のテキストがあるが、太宰春台撰『古文孝経孔氏伝』の刊行(享保16年・1731年)以降は、『古文孝経』が主流になる。この点に着目し、『古文孝経孔氏伝』における孝道徳の特徴を、古文と今文との比較考察を通して検討した。その結果、(1)身を立てる行為が強調されて、孝徳に加えられた、(2)身を立てる行為とは家の維持存続であり、孝の目的は先祖祭祀から家の維持存続へと転換した、(3)孝行の動機として「親の恩」が設定されたこと等を明らかにした。この孝道徳は、近世的家の維持には適合するものの、家をもたない都市下層の道徳として、あるいは19世紀前中期以降の近世的家の解体期において、新たな展開を見せることを予測した。
|
Research Products
(4 results)