2009 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本画からの遡及――江戸時代写生画をめぐる図像と言説
Project/Area Number |
20520094
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
今橋 理子 Gakushuin Women's College, 国際文化交流学部, 教授 (70266352)
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Keywords | 江戸時代絵画 / 近代美術 / 写生 / 画題 / 図像と言説 |
Research Abstract |
本課題では江戸の写生画と明治近代日本画との関係について、大きく二つの課題(秋田蘭画派および円山応挙を中心とする京派)に取り組んでいるが、平成21年度では、秋田蘭画派における「写生」的要素の再検証を中心に、作品調査と資料分析とを行い、最終成果としての著作を発表した。内容としては、秋田蘭画研究の嚆矢である平福百穂の『日本洋画曙光』を再検証し、彼が秋田蘭画派を先駆的な「新しい日本画派」と認識していたことを明らかにした。さらにそこから発展し、秋田蘭画派の傑作・小田野直武筆「不忍池図」(重要文化財)を新たに論じる試みを行った。昭和30年代に世上に現れた「不忍池図」を、昭和8年に没した平福が知ることはなかったが、秋田蘭画派における先進性を直感的に見抜いた平福の見識は、「不忍池図」を<名作>と評価する現代の美術史・美術批評観の根幹を成していたと言える。そうした点を踏まえて、研究代表者は同作品の分析を行い、結果として「不忍池図」が単に<山水花鳥画>という絵画ジャンルであったにとどまらず、実は中国美人画の文学的言説に基づく一種の<見立美人画>であり、また同時代の江戸風俗や中国春画の言説、さらには鑑賞における遊びの要素をも駆使した、非常に複雑な意味体系を成す絵画であることを立証するに至った。この成果は単著『秋田蘭画の近代-小田野直武筆「不忍池図」を読む』(東京大学出版会、2009年4月、pp400)として上梓した次第である。なお同書は姫路市主催・第22回和辻哲郎文化賞〔一般部門〕を受賞した(平成22年3月1日付)。またこうした研究成果からの新たな問題として、<美人画>と<花鳥画>の境界的作品が江戸中期以降かなりの数が現れることに注目し、伊藤若沖の作例から明治近代絵画を論じる試みを別に行った。こちらの研究成果としては「鸚鵡の肖像-<花鳥画>と<美人画>の境界」(岩波書店『文学』第10巻5号、2009年9月)という論文を発表した。
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