2009 Fiscal Year Annual Research Report
土地の記憶の生成・変容過程に関わる芸術の機能の研究
Project/Area Number |
20520112
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 裕 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80167163)
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Keywords | 集合的記憶 / 芸術 / 観光 / 地域イメージ / アイデンティティ / 映画 / 文化資源学 |
Research Abstract |
本研究は,土地に関わる記憶が人々のうちに形作られ,また変容してゆく過程で芸術がどのように関与し,その際にいかなるメカニズムが作動しているかを解明し,それが人々の共同体意識やアイデンティティ意識の形成へと結びついてゆくあり方を明らかにすることを目指すものである。 二年目となる本年度は、研究開始時から計画していた小樽、ベルリンに加え、近年話題になっている長崎県の端島(通称軍艦島)を新たに考察対象に加えた。廃墟趣味の対象として、また産業遺産の一つとして、あるいは出身者にとっての追憶の対象として等の異なった視線が交錯する中で、それらの関係性自体が変化しながらこの島の表象が様々に変化してきたさまを、言説研究の手法で明らかすると同時に、その過程で写真集やドキュメンタリー映像だけでなく、この島を舞台にした映画やテレビドラマなどが、それらの複数の表象が離合集散する契機として機能していることを明らかにしえたのが大きな収穫であった。また、ベルリンに関しては、東西合同後に生じている、いわゆる「オスタルギー(東時代への郷愁)」の動きにみられる構造が、現代日本における「昭和ノスタルジー」とかなり共通していることが明らかになってきた。今後は「昭和の東京」の表象への考察をも深めることによって、両者を比較しつつ、地域イメージの変化メカニズムを明らかにしてゆくことに精力を傾けたい、また、芸術ジャンルとしては、これまでの研究の力点は映像におかれていたが、地域表象はマルチメディア的な問題であり、複数のジャンルの相互関係の問題として考えてゆく必要がある。そのための基礎として本年は、都道府県歌などの「共同体の歌」の事例を通して、地域表象への音楽の関わりの考察も深めてゆくことを目指し、明治以後の近代的国民意識の生成との関わりを明らかにした。現段階ではまだ、映像研究と音楽研究の両者を結び合わせる接点を見いだしているとは言い難いが、残る二年間で何とか形にしたいと思っている。
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Research Products
(3 results)