2008 Fiscal Year Annual Research Report
後期上方読本の成立における実録の影響についての研究
Project/Area Number |
20520164
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
田中 則雄 Shimane University, 法文学部, 教授 (00252891)
|
Keywords | 読本 / 後期読本 / 上方読本 |
Research Abstract |
後期上方読本の成立には実録が大きく関与しているという予測に基づき、調査研究を行った。まず実録書目の調査の成果として、『敵討雲陽実記』の発見がある。この作品は、享保年間松江藩で起こった妻敵討事件を素材とするものであるが、構成面などに実録独特の様式が明確に現れている。それは同一の事件を描いた浮世草子と比較しても、特徴的なものであることが認められる。 後期上方読本の作『鎗権三累〓』も同じ事件を描くものである。本作品は、近松門左衛門の浄瑠璃『鑓の権三重帷子』に大きく拠っているが、読本独自の様式を備えている。具体的には、近松作にはなかった、悪人の滅亡という型を設けて、事件の終熄を象徴的に表示するという方法である。大きな流れの中において見るとき、実録の備えていた様式が後期上方読本へと流入していることを認めることができる。 また鏡山物と称される敵討事件を扱った実録について資料収集を行い、一部系統立てを試みた。次年度に、この事件を扱う読本と対比しながら論究するための基盤の整備である。 なお上記の例においても該当するが、実録と読本との位置関係を捉えるにあたり、演劇(特に浄瑠璃)を比較対象として加えることが有効と思われることを、本年度の研究によって把握することができた。
|
Research Products
(3 results)