2008 Fiscal Year Annual Research Report
明治・大正の誕生期における大衆的言説のジェンダー構成に関する文学的研究
Project/Area Number |
20520183
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 Waseda University, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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Keywords | 進化論 / 骨相学 / 大衆 / ジェンダー / 女性 / 徳田秋声 |
Research Abstract |
本研究の目的は、誕生期にあった「大衆」に、ジェンダー構成に関するどのような言説が与えられていたのかを、雑誌、新聞、雑書を中心に分析することで、当時の大衆の心性と思想性が文学テクストに与えた影響を構造的に明らかにするところにある。 明治期後半から大正期前半かけて、都市部を中心として「大衆」が規摸を拡大し、無視できない存在となった。一例を挙げれば、朝日新聞はそれまで下町の商人階層をターゲットとして編集をしていたが、山の手に形成された新興の中流知識階層の将来性を見抜き、夏目漱石を専属作家として迎えることでイメージチェンジを計り、この新興中流知識階層をターゲットに切り替えた編集を行って成功を収めたのが、まさに明治期後半であった。ここで言う「新興中流知識階層」こそが、現在の「大衆」の原型だと言っていい。 この「大衆」の原型と同時に「発見」されたものがある。それは「女性」である。もちろん、近代以前にも様々な形で「女性」は論じられてきた。しかし、「男性」と拮抗しうる存在としてある思想的な厚みを持って「女性」が論じられるようになったのは、近代以降である。大衆的言説の関心の中心も、まさに「女性」にあったと言っていい。 歴史学者の成田龍一は雑誌『少年世界』(博文館)の分析から、明治期の言説の変容は1900年前後としている。これを文学において確認するためにやや通俗的な作家である徳田秋声の小説テクストを分析した。その結果、やや遅れて1910年前後には、進化論を前提とした骨相学的パラダイムが物語を支配していることが明らかになった。すなわち、登場人物の容貌が記述されると、それがそのままストーリー上の役割と重なるということである。ただし、この「個性」は男性の登場人物に特徴的である。そこで、次には女性の容貌の記述がいつ頃からストーリーを支配するようになるかを明らかにしたい。
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